十三番目の罪痕

イサナの背には、十二人分の罪が文字になって浮いていた。

盗人を斬れば「盗」。人殺しを吊れば「殺」。処刑人の肉へ罪を移すことで、死者の魂は軽くなる。それが聖庁の決めた救済だった。十三番目の囚人オルグが石台へ膝をつくと、見物人は罪痕の増える瞬間を待って息を潜めた。

「異端の印刷工。神官の名を汚す文書を百枚刷った」

裁判官が読み上げる。だがイサナは、その文書を一枚だけ読んでいた。孤児院へ送られた寄進金が、司教の地下酒蔵へ消えた記録。数字も印章も本物だった。

斧を握る右腕に、黒い文字が滲み出す。執行前から罪痕が現れるのは、判決そのものが罪である時だけだ。浮かんだ字は「偽」。無実の者を斬れば、その字は骨まで沈み、処刑人が死ぬまで疼き続ける。背にある十二のうち、三つはすでに同じ痛みを持っていた。

裁判官はそれを見て顔色を変えた。

「布を掛けろ。早く斬れ」

黒布がオルグの頭へ被せられる。イサナは刃を振り上げた。囚人を救えば、罪痕は消えない。それどころか、聖庁に逆らった者の印「叛」が心臓へ刻まれ、夜明けまでに命を奪う。

「刷ったのは私だ」とオルグが布の下で言った。「だから、あんたまで死ぬな」

「十二人も軽くしてきた。今さら自分だけ重いままでは、釣り合わない」

斧が落ちた。

切れたのは首ではなく、オルグを縛る鎖だった。群衆がどよめく。イサナは返す刃で裁判官の机を割り、隠されていた寄進簿を晒した。兵たちが動く前に、印刷工は紙束を空へ放つ。白い告発状が雪のように広場を舞った。

イサナの胸に「叛」が焼きついた。痛みで膝をつきながらも、彼女は笑った。ところが死の刻限を告げる鐘が鳴っても、心臓は止まらない。

背中の十二の罪痕が胸へ集まり、「叛」を取り囲んでいた。救われた死者たちが、今度は彼女の罪を引き受けたのだ。

夜明け、イサナは生きて牢を出た。ただし全身の皮膚は、黒い文字で一分の隙もなく埋まっていた。

門番が名を尋ねると、彼女は首を振った。顔にまで文字が重なり、もう口の位置さえ分からなかった。