十四時の白いドレス

結婚式まで二週間。十四時に予約した貸衣装店の試着室を開けると、顔を薄いベールで隠した女性が、私のウェディングドレスを着ていた。

「柏葉茉白さま?」

担当の水守さんが青ざめる。予約端末には、同じ時刻、同じドレスで「曽我部美緒」と表示されていた。

そのドレスは、亡くなった母のものを仕立て直した一着だ。曽我部さんは慌てて脱ごうとしたが、仕立て担当の嶺川さんが「あと一分だけ」と裾を確かめている。二重予約を入れられたのは、水守さん、曽我部さん、嶺川さんの三人だった。

気づいた手掛かりも三つある。

左の裾だけ、古い青糸で縫い直されている。鏡台には、母のドレスから失われたはずの真珠飾り。そして予約票の連絡先は、今は誰も住んでいない母の実家の固定電話だった。

「曽我部さん。母の妹の、美緒さんですね」

ベールが上がる。幼い頃に一度会ったきりの叔母は、母とよく似た目をしていた。

母の結婚式の一週間前、美緒さんはこのドレスを内緒で借りた。遠くへ転勤する恋人と、写真だけでも残したかったからだ。そのとき裾を金具に引っかけ、真珠を一つ落とした。青糸で縫って戻したものの、姉には言い出せなかった。

恋は終わり、母とも気まずいまま離れた。母が亡くなったあと、真珠を返す機会も失ったという。

私がドレスを仕立て直すと親族から聞き、美緒さんは同じ時間を予約した。私に会うつもりはなく、嶺川さんに裾をきちんと直してもらい、真珠を置いて帰るつもりだった。着たのは、古い傷が体を入れたときだけ開くからだ。

「お姉ちゃんは、たぶん最初から気づいてた。でも何も言わなかった。謝るのが遅すぎて、ごめんなさい」

嶺川さんは青糸を抜き、真珠を元の位置へ縫いつけた。私は美緒さんの肩へもう一度ベールを掛ける。

「写真、残っていないんですよね」

「一枚も」

スマートフォンを水守さんに渡し、鏡の前に並んだ。白い裾が重なり、母の若い頃が二人分映った気がした。

撮影音のあと、美緒さんは泣きながら笑った。

「お姉ちゃん、やっと怒れるかな」

私は戻った真珠に触れた。

「たぶん先に、きれいって言います」