十歩の測り方

狩王ザシュの猟犬が迫る中、薄葉キリエは幼い案内NPCピノラへ銀の鈴を渡した。

《追跡鈴》

所持者の十歩以内にいる敵を、狩王へ通知します。

距離単位「一歩」は所持者の通常歩幅。

「そんなものを子供に持たせるな!」

攻略仲間が叫ぶ。鈴を捨てれば即座に所持欄へ戻る呪いがあり、これまで誰が持ってもザシュに居場所を知られた。十歩は十メートルほどだと誰もが思っていた。

ピノラの一歩は二十センチにも満たない。

鈴の通知範囲が半径二メートルへ縮む。キリエたちが少し離れると、頭上の《追跡中》表示が消えた。

「お姉ちゃん、置いていくの?」

「違う。真ん中を歩いて」

一行はピノラを中心に、二メートルより外側の円を保って走る。ザシュの地図には、鈴の位置だけが光る。周囲のプレイヤーは検知されない。

狩王が一人きりの子供だと思い、森の広場へ飛び込んだ。

ピノラはその場で大股に一歩だけ踏む。

鈴の基準歩幅が更新され、検知範囲が一瞬だけ広がった。木陰に隠れていたキリエたちと、ザシュ本人が同時に「敵」として鈴へ登録される。

狩王の猟犬は、通知された最も近い敵へ襲いかかる。ピノラから最も近いのは、彼女を捕まえようと手を伸ばしたザシュだった。

「俺は所有者側だ!」

「説明には、所持者の味方とは書いてない」

猟犬が主へ牙を剥く。キリエたちは攻撃せず、ピノラを抱えて包囲を抜けた。

安全門の前で、少女は鈴を返そうとする。キリエは首を振った。

「その歩幅でしか見つからない道もある」

鈴の説明欄へ、新しい一行が加わった。

《追跡対象:狩王ザシュ》

《基準歩幅:ピノラの一歩》

安全門の外で、ピノラは自分の歩幅を測り直した。怖い時は小さく、誰かを助けに行く時は大きくなる。数値は一定ではなかった。

キリエは鈴を罠としてだけ扱わず、少女が進んだ範囲を地図へ残す道具に変えた。狩王の地図には獲物の位置しか記録されない。ピノラの地図には、十歩ごとに誰と一緒に歩いたかが残った。

《狩猟結果を訂正――最も小さな歩幅は逃走距離を縮めたのではなく、狩人だけを罠の内側へ入れました》