半月の玉璽
梁都の東楼で、韓崇烈は半月形の玉を卓上へ置いた。敵の使者・魏嵩は触れずに眺めた。
「残り半分は梁王が持っているはずだ」
「今夜まではな」
窓の外では、包囲軍の篝火が河岸を赤くしていた。城内の井戸は枯れ、兵は馬の革を煮ている。それでも梁王・朱延は降らない。明朝、外郭の水門を切り、城下の民ごと敵陣を濁流へ沈める命を出した。敵を千人殺すために、味方を一万捨てる算段だった。
魏嵩が低く問うた。
「王を売って、何を買う」
「東の三坊を焼かぬこと。武器を置いた兵を斬らぬこと。それだけだ」
「自分の首は」
「勘定に入れていない」
玉璽は、代々の梁王が軍令を割って伝えるための符だった。二片を合わせ、欠け目が一筋につながれば本物と分かる。崇烈は今朝、軍議の席で朱延の腰から片割れを盗んだ。盗んだのではない。王が杯を投げたとき、落ちた玉を拾わず、袖で隠しただけだ。忠義というものも、拾わなければそれまでだった。
「偽物ではない証を」
魏嵩が言った。
崇烈は短刀を抜き、玉の裏を削った。白い粉の下から、古い朱が現れた。十三年前、先王が崇烈へ初陣を命じたときについた血だ。朱延はその父を毒殺して位を奪ったが、玉の血までは拭えなかった。
魏嵩の目が変わった。
「東門を開ければ、梁王は内城へ退く」
「退かせる。内城の兵には、王が敵前逃亡したと伝える」
「嘘か」
「半分だけだ。王はいつも、民より先に逃げる」
石段を上る足音がした。朱延の近侍が、崇烈を探している。水門を切る刻限が早まったらしい。
魏嵩は玉を取り、懐からもう一片を出した。驚く崇烈へ、冷たい笑みを見せる。
「先月、王の弟から買った。梁家は裏切り者ばかりだ」
二つの半月は、音もなく一つの円になった。
崇烈は笑わなかった。自分だけが特別だと思うほど若くない。
楼下で三更の鐘が鳴る。城下の闇から、泣く子をあやす声がかすかに届いた。崇烈はその声に詫びず、東門の兵へ見えるよう、完成した玉璽を高く掲げた。
重い閂が抜かれ、夜の城壁に門が開いた。