受け流された一万ダメージ
逆巻アヤノのHPが一で止まり、代わりに新人三人が同時に倒れた。
《ギルド身代わり》
受けたダメージを、指定したギルドメンバー一名へ転送できます。
転送履歴は戦闘終了時まで非公開。
「運が悪かったな」
団長はそう言い、無傷のまま炎帝へ斬り込む。新人は皆、回避に失敗したと思っていた。だがアヤノの盾には、見慣れない細い数字が出ている。
《転送受領:9999》
《転送元:閲覧権限なし》
彼女は新人の回復を担当していたため、自分の被弾より彼らの減り方を見ていた。団長が攻撃を受けるたび、後列の誰かが同じ量だけ倒れる。
炎帝の最終技が始まる。全体に一万ダメージ。団長は身代わり先をアヤノへ変更した。
「お前なら盾で耐えるだろ」
権限窓が一瞬だけ開く。アヤノは転送を拒否できない。けれどシステム説明には、転送の回数制限も、終点も書かれていない。
彼女は受け取った一万を、団長へ転送した。
団長も反射的にアヤノへ戻す。アヤノはまた団長へ。目に見えない一万ダメージが二人の間を往復し、転送履歴だけが何百行も積み上がる。
炎帝の技が終わっても、循環は止まらない。
「解除しろ!」
「最初に指定を外せるのは、最初に転送した人だけよ」
団長の顔が青ざめる。彼が身代わり機能を切った瞬間、循環していたダメージが転送元へ確定する。
一万ではない。新人へ押しつけた分を含む累積値だった。
団長のHPがゼロになり、炎帝はまだ立っている。アヤノたちは倒れた新人を起こし、残りの戦闘を自分たちの傷で引き受けた。
《炎帝討伐成功》
《ギルド身代わり履歴を公開》
《累積転送ダメージ:八万七千》
転送履歴が公開されると、新人たちは自分が何度「回避失敗」と叱られたかを数え直した。実際には、一度も攻撃を受けていない者まで倒れている。
団長は効率のためだと言い訳した。強い者が生き残ればギルド全体が得をする、と。
アヤノは履歴を削除しなかった。痛みの数字だけでは、誰が悪いかは決まらない。けれど転送元と転送先を見れば、誰が説明も同意もなく他人のHPを財布のように使ったかは分かる。
炎帝の素材より先に、彼女たちは新人三人へ経験値補償を分けた。
《最終負担者を決定――他者へ渡した傷を最後まで自分の傷として扱わなかった者》