受付台は戦場より広い

白環ギルドの受付係エルネは、剣を握ったことがない。

だから貢献度は一%。ギルド長ゲルハルトは、その表示を客へ見せるたび鼻を鳴らした。

「依頼書を渡すだけの者に給金を払う余裕はない」

エルネは依頼書を渡すだけではなかった。泥の色で街道の崩落を読み、署名の震えで依頼人の嘘を見抜き、冒険者の装備の匂いから疲労を察した。無口な剣士には護衛を、声の大きい魔術師には採取を勧めた。誰も、自分が危険な依頼から外されていたとは知らない。

解雇された昼、彼女は引き出しの私物を小箱へ詰め、受付台を新任へ譲った。

夕刻には怒号が満ちた。薬草採取へ出た熟練班が空振りし、駆け出し班は擬態獣の巣へ送られた。依頼人同士の契約も食い違い、報酬庫の前で抜刀騒ぎまで起きる。

ゲルハルトはすべてを冒険者の不注意だと言った。

そこへ、ずぶ濡れのエルネが戻った。忘れた傘を取りに来ただけだった。だが受付台の上で、駆け出し班からの救難石が震えている。

彼女は上着も脱がず、依頼書の紙質を指で弾いた。

「この紙は北門の商会製です。依頼地の村では売られていません。救難石の反響も洞窟ではなく、水路。依頼そのものが誘導です」

エルネは待機していた冒険者へ短い指示を出した。相性の悪い者を離し、盾役と風術師を組ませ、裏門から向かわせる。救出は間に合った。

戻った駆け出したちは、受付台の前で彼女へ頭を下げた。ゲルハルトは咳払いし、恩着せがましく椅子を示す。

「今回だけは復職を認めよう」

「受付係には戻りません。責任があるのに、決定権がない席でしたから」

その言葉を拾ったように、依頼管理核が全記録を開いた。事故にならなかった依頼、争いへ育たなかった契約、帰還できた組み合わせ。その中心に、エルネの判断が並ぶ。

新任の受付係は、机の奥からエルネの覚え書きを見つけた。冒険者の得意分野だけでなく、恐れているもの、無理をして笑う癖、組ませてはいけない相手まで記されている。数字にならない配慮を、彼女は毎日更新していた。

救出された駆け出したちは、ゲルハルトではなくエルネの前へ並んだ。彼女は復職願ではなく、新しい配分規程を受付台へ置く。

「名声で割り込む依頼も、責任者の気分による変更も認めません」

《依頼配分・真正査定》

旧評価 一% → 真値 九十七%

総合貢献順位 首位:エルネ

役職更新 受付係 → 任務配分総監

旧ギルド長ゲルハルト → 配分承認待ち