古い麦から門を出す

城塞都市の穀倉には、麦が一万袋あった。なのにパン屋は粉が足りないと騒ぎ、倉庫の奥からは酸っぱい臭いが漂っていた。

「異世界人に麦の何が分かる」

倉庫長は依織を入口で笑った。届いたばかりの袋を手前へ積み、取り出しやすい新しい麦から毎日出している。奥には去年の袋が壁のように閉じ込められていた。

依織は一本の白線を床に引いた。

入口を二つに分け、右から新しい袋を入れ、左から古い袋を出す。たったそれだけだった。袋には収穫月を大きく書き、列が蛇のように一方向へ進むよう積み直した。

「わざわざ全部動かすのか!」

「今日だけです」

兵士百人が半日かけて積み替えた。奥から出た麦のうち、三百十二袋はまだ無事だった。五十袋は熱を持ち、あと数日で全滅するところだった。

翌朝、依織は左口の先頭から十袋を製粉所へ送った。焼き上がったパンは香ばしく、割れば湯気が立つ。酸味はない。籠一つが配給所に届く前に空になった。

白線の効果は、味だけではなかった。右口から入る荷車と左口から出る荷車が鉢合わせしない。袋を積み替える回数は一台あたり二十六回から六回へ減り、肩を痛めていた兵士まで列に戻った。

依織は熱を持った五十袋だけを別棟へ運ばせた。腐敗の臭いが穀倉全体へ広がる前に、家畜飼料として払い下げる。廃棄になるはずの麦にも銀貨が付いた。

昼には、どの袋を次に出すか尋ねる声が消えた。先頭にあるものが答えだからだ。

倉庫長は新しい袋を取ろうとしたが、白線の前で止められた。

「出すのは左の先頭です」

少年兵が迷わず去年の麦を担ぐ。荷出しにかかった時間は、昨日までの半分だった。探す必要がないからだ。

会計官が算盤を弾いた。

「救えた三百十二袋で、籠城は十一日延びる」

倉庫長の顔から色が消えた。依織を追い返せば、腐らせた責任まで自分に戻ってくる。

城主は焼きたてのパンを一口かじり、白線の向こうに積まれた麦を見た。

「王領十二穀倉にも同じ流れを作れ。依織を穀倉監察官として雇う」

門外の粉屋へ、古い麦から順に荷車が走り出した。