同居人変更届
鬼塚朔平の郵便受けに、管理会社から封書が届いた。
〈未申告の同居人一名を確認しました。七日以内に届け出てください〉
一人暮らしなので、該当者なしに丸をつけて返送した。
三日後、訂正依頼が来た。
〈水道使用量、床荷重、深夜の生活音から、常時二名の在宅を確認しています〉
〈同居人との関係:室内側〉
〈入居開始日:主契約者より以前〉
最後の二項目は、すでに印字されていた。
朔平は電話で抗議した。
担当者は申し訳なさそうに言った。
『規定上、お住まいの方を不存在として処理することはできません』
「俺しか住んでいません」
『そのお申し出は、もう一名の方からもいただいております』
翌日、室内確認が行われた。
担当者は靴を脱ぐと、朔平ではなく、誰もいない廊下へ頭を下げた。
「同居人様、本日はよろしくお願いいたします」
寝室の壁が、こつ、と一度鳴った。
担当者は各部屋を測り、二人分の寝具、二人分の呼吸音、二人分の体温を確認したと書類に記入した。ベッドは一つで、朔平以外には誰も見えない。
「退去させてください」
「どちらの方をですか」
「知らないほうです」
担当者は首をかしげた。
「双方から同じ希望が出ていますので、協議が必要です」
夜、テーブルに同居人変更届が置かれていた。
主契約者の欄には、朔平の名。
新しい同居人の欄は空白。
彼がペンを持つと、何もない向かいの椅子が沈み、紙の反対側から同じ筆跡が現れた。
〈主契約者と同居人を入れ替える〉
朔平は書類を破り、その日のうちに解約届を出した。
一週間後、承認通知が届いた。
〈主契約者の退去を受理しました〉
〈同居人は継続して居住します〉
〈鬼塚朔平様は無届け同居人となるため、速やかに退去してください〉
管理会社へ駆け込むと、担当者は画面を確認した。
「鬼塚様は、いまお部屋にいらっしゃいます」
「俺が鬼塚です」
「では、お部屋にいる方はどなたでしょう」
朔平は答えられなかった。
帰宅すると、鍵はもう回らなかった。
呼び鈴を押す。室内から、裸足で廊下を歩く音が近づいた。
『どちら様ですか』
インターホンから、朔平と同じ声がした。
「ここに住んでいる者です」
しばらく沈黙があり、郵便受けから一枚の紙が差し出された。
〈無断同居を確認しました〉
〈次回の侵入時は、残置物として処分します〉
扉の向こうで、誰かが管理会社へ電話をかけた。
「知らない人が、ずっと家の前にいるんです」