呪いの術者まで担架に乗せる

戦場担架手リスカナは、宮廷騎士から「死にかけを運ぶだけの女」と呼ばれていた。

剣を振らず、治癒魔法も使えない。負傷者を拾って後方へ走っても、助かった命は治療師の功績になる。間に合わなければ、担架手が遅かったと責められた。

彼女の技能説明には、妙な一語があった。

【因傷搬送:負傷者一名を、負傷の原因とともに治療者のもとへ運ぶ。搬送中、容体は悪化しない】

誰もが「原因」とは刺さった矢や毒の瓶のことだと思っていた。

王女が祝勝式の壇上で倒れたのは、その日の正午だった。傷はないのに胸元から黒い蔓が伸び、心臓の鼓動を一つずつ締め上げている。宮廷治療師は浄化を重ねたが、蔓は切るたび太くなった。

「遠隔呪詛だ。術者を見つけるまで保たぬ」

筆頭治療師はそう言い、最後の秘薬を自分の失敗の証拠ごと隠そうとした。

リスカナには、蔓の先が北の空へ続いて見えた。王女を担架へ寝かせると、騎士長が腕をつかむ。

「どこへ運ぶ。治療師はここだ」

「だから、ここへ原因も運びます」

彼女は担架の前脚を一度持ち上げ、筆頭治療師の足元を届け先に定めた。

黒い蔓がぴんと張った。

次の瞬間、北塔の隠し部屋にいた呪術師が壁を突き抜け、蔓に引かれて担架の後部へ転がり落ちた。手には王女の髪と、隣国の印章。遠くに隠れていた術者までが「負傷の原因」として搬送されたのだ。

移動中は悪化しない。その一文どおり、王女の止まりかけた鼓動は同じ強さで保たれている。

筆頭治療師は青ざめた。術者本人が目の前にいれば、呪いの核を逆流させるだけでいい。杖先が触れた途端、黒い蔓はほどけ、王女が大きく息を吸った。

呪術師の懐からは、騎士長名義の依頼書まで落ちた。

誰ももう、担架をただの板とは呼ばなかった。

王女は目を開けると、宝石を飾った治療師ではなく、担架の横で息を切らすリスカナの手を握った。騎士長は自分の名がある依頼書を奪おうとしたが、担架の四方を、これまで彼女が救った兵士たちが無言で囲んだ。

《職業が【戦場担架手】から【因果救送聖】へ書き換わりました》