四つ目の太鼓

面伏町観光協会のボランティアチャットには、祭り当日の朝、固定メッセージが送られてきた。

【顔伏せ祭・面の扱い】

《借りた面は、四度目の太鼓が鳴るまで外してはいけない》

面は参加者ごとに形が違うはずなのに、受付の棚には慶司のものだけが二枚あった。係員へ尋ねると、『去年返されなかった分です』と言われた。慶司は昨年この町へ来ていない。観光協会のチャットで確認しても、管理者は質問を削除し、太鼓の絵文字を四つ並べただけだった。

鳥越慶司は二十四歳。町おこし動画の撮影を請け負い、白い木彫りの面を渡された。眉も口もない、卵の殻のような面だった。紐を結ぶと内側が妙に温かく、誰かの息が頬に当たった。

雨上がりの石畳には提灯の赤が滲み、面の裏から古い白粉と唾の匂いがした。胸元のカメラは満充電だったのに、太鼓ごとに残量を二十五パーセントずつ失った。

夜九時、面を着けた住民が無言で参道に並んだ。一度目の太鼓で歩き、二度目で止まり、三度目で全員が慶司を向く。面の内側から、細い指が鼻孔を塞いだ。

息ができない。

四度目を待てず、慶司は一度だけ面を持ち上げた。

参道には誰もいなかった。代わりに、左右の民家の窓へ、慶司と同じ顔が一つずつ貼りついていた。笑っている顔、泣いている顔、眠っている顔。百を超える自分が、窓ガラスの向こうから「早い」と口を動かした。

慶司は面を戻した。直後、四度目の太鼓が鳴り、住民たちの足音が戻った。隣にいた係員は何も尋ねず、祭りの終了スタンプだけをチャットへ送った。

動画を確認すると、三度目と四度目の間だけ映像が欠け、その秒数ぶん慶司の顔認証履歴が増えていた。

ホテルで面を袋にしまい、スマホを見た。顔認証が何度やっても失敗する。暗いせいだと思い照明を点けると、画面の自分には眉も口もなかった。指で触れれば感触はあるのに、カメラの中だけが白い。

パスコードで解除した直後、設定アプリが勝手に開いた。

《新しい容姿の登録が完了しました》

登録名は「鳥越慶司」ではなく「面伏祭主」。サムネイルには、袋の中にあるはずの白い面が映っていた。

そしてスマホは、誰も触れていないのに画面を消し、慶司の顔を見てすぐに解除された。

《祭主様、おかえりなさい》