四人目を捨てない昇級試験
冒険者ギルドの銀級試験には、嫌われた規則が一つある。
「足手まといを切り捨てられる者だけが、上へ行ける」
試験官がそう宣言し、負傷役を割り当てられたディオクの足首へ重い枷をはめた。三人の受験者は迷わず彼を置いて退避線へ走る。残ったのは、盾役のフィネラだけだった。
「何をしている。そいつは囮だ」
「同じ申請書に四人で署名しました。試験中だけ仲間でなくなる欄はありません」
ディオクは派手な技こそないが、遠征のたびに退路を調べ、全員分の水を分け、最後に眠る男だった。先に逃げた三人も、その地図で何度も迷宮から帰っている。だが昇級証が目前にぶら下がると、誰も彼を振り返らなかった。フィネラだけは、彼から預かった予備の水筒を腰に残していた。
観客席から失笑が起きた。フィネラの盾は安物の木製で、端には何度も継いだ革が見える。試験官は巨大な戦斧を肩へ担ぎ、合格者候補を教育するつもりで踏み込んだ。
第一撃《岩割り》。
斧が地面へ落ち、衝撃波と土煙が二人を呑んだ。石床は放射状に砕け、退避線の受験者まで尻もちをつく。試験官は笑って斧を引こうとし、そこで眉を寄せた。
柄が、引けない。
地面に食い込んだのではない。刃はフィネラが前へ出した木盾へ触れていた。なのに斧を支える腕だけが痺れ、山へ打ち込んだような反動が返ってくる。
土煙が晴れた。フィネラは盾を胸の高さへ置いた同じ姿勢で立っている。背後のディオクは枷の鍵穴を覗き込み、「これ、錆びていますね」とのんきに言った。木盾には傷どころか、古い塗料の剥がれさえ増えていない。
「魔道具だ。盾を捨てろ!」
フィネラは素直に盾を横へ置いた。そして素手でディオクの前へ立つ。
試験官の顔が赤くなった。戦斧へ全魔力を注ぎ、対巨人奥義《山脈断ち》を振り下ろす。轟音のあと、今度は天井まで灰色に曇った。
煙の中でも、フィネラの靴音は一度も動かなかった。
試験官が後ずさりかけた瞬間、測定柱の針が一周、二周、十周し、最後に文字盤そのものが白く消えた。
《防御値:測定不能》