土曜日のメニューは決まりません

【午後四時五十分】

 母「夕飯、何がいい?」

 父「何でもいい」

 姉「重くないもの」

 弟「肉」

 祖母「昨日の残りで十分」

【午後五時】

 母「何でもいいと言った人は、候補を一つ出してください」

 父「では、鍋」

 姉「暑い」

 弟「肉が少ない」

 祖母「豆腐が一丁ある」

 母「鍋は否決」

【午後五時十五分】

 冷蔵庫前で臨時家族会議。

 確認された食材は、卵三個、豆腐一丁、半分の人参、しなびた葱、食パン二枚、賞味期限が今日の牛乳。

 父「外食にしよう」

 母「今月の外食費は終了しました」

 姉「お父さんが先週、特盛を頼んだから」

 父「家族で分けた」

 弟「ほとんど自分で食べた」

 祖母「責任を取って、今日は作りなさい」

【午後五時三十分】

 父、卵焼きを担当。

 姉、食パンを細く切って焼く。

 弟、人参を星形に抜こうとして、ただの多角形を量産。

 祖母、豆腐と葱で味噌汁を作る。

 母、何もしないと宣言し、全員から疑いの目を向けられる。

「毎週、私が決めて作ってるんだから、今日は座る」

 誰も反論できなかった。

【午後六時二十分】

 食卓に並んだもの。

 甘すぎる卵焼き。

 焦げたパン。

 形の分からない人参。

 豆腐ばかりの味噌汁。

 母がこっそり冷凍庫から出した餃子。

「何もしないって言ったじゃん」

「不安だったの」

 全員が笑った。

【午後六時四十五分】

 料理名を決める。

 父案〈家族定食〉

 姉案〈冷蔵庫在庫処分プレート〉

 弟案〈星のにんじん大冒険〉

 祖母案〈土曜の晩ごはん〉

 採決の結果、祖母案に決定。

「普通すぎる」

 弟が不満を言うと、祖母は味噌汁をすすった。

「普通のごはんを、みんなで作って食べられる日は、料理名まで普通でいいの。毎週食べられる味のほうが、うちには大事だよ」

【午後七時】

 皿洗い担当を決める会議が始まり、再び紛糾。

 結論は出なかった。

 それでも土曜日のメニューには、それから毎週〈未定〉と書かれるようになった。

 決まらないまま台所へ集まり、文句を言いながら一品ずつ作る時間が、家族のいちばん人気の献立になったからだ。