声量一で迷宮王を黙らせる

《音声だけ後付けじゃない?》

《“言霊でボス撃破”とか編集し放題だろ》

《口パク配信者、今日は生声出せるの?》

音羽玲は返事の代わりに、首元の変声器を外した。機材を床へ置き、マイクの電源まで切る。

声を守るための機器が、いつしか偽声の証拠と呼ばれていた。今日は観客席にも集音器を置かず、現地の振動計だけを第三者機関へ直結してある。

第十二層の玉座では、迷宮王ガルドが千体の骸兵を従えていた。玲の声が本物かどうか以前に、単独で近づけば数秒で包囲される数だ。

王は過去に音響魔法をすべて無効化しており、検証場所として選んだのは玲自身だった。逃げ道の転移陣も封じてある。

彼女はスマートフォンを石床へ伏せた。

「機械に拾わせる必要はないから」

ガルドが剣を振り上げる。骸兵たちの骨が一斉に鳴り、白い波となって玲へ殺到した。

玲は息を吸い、ただ一言だけ告げた。

「跪け」

大声ではなかった。

それでも玉座の間を満たした殺気が、見えない重みに押し潰された。骸兵は一体残らず膝を折り、次の瞬間には骨の山へ崩れる。迷宮王だけは剣を支えに耐えたが、王冠が縦に割れ、玉座ごと沈み込んだ。

《マイク切れてるのに端末が振動してる》

《現地の環境音センサーが拾ったぞ。音圧じゃない、魔力波だ》

《骸兵千体、全部の契約核が同時破断》

《ガルドが命令を聞いたんじゃない。“格の差”で従属判定されたのか》

玲は伏せていた端末を拾う。配信には音がほとんど入っていなかった。それなのにコメント欄だけが、彼女の一言を聞いた者のように静まり返った。

やがて、迷宮解析協会の検証班が結果を書き込む。

《生配信の時刻署名一致》

《外部音源なし。編集余地ゼロ》

《言霊じゃない。固有能力名は【王威】》

《偽物扱いしてた俺らの耳が節穴だった》

玲は割れた王冠を拾わず、出口へ向かった。観戦席で彼女の生声を初めて聞いた監査員は、まだ耳ではなく胸元を押さえていた。

画面上部に赤い認定帯が現れる。

【国内初確認――無詠唱・無増幅による広域支配判定】

同時視聴者数は、無音のまま百万人を越えた。