夏を半分ずつ
瑠佳の夏には、慎吾の町で雪が降った。
チリ北部の天文台で働く深町瑠佳と、長野で小さな家具工房を営む榊原慎吾は、季節を半分ずつ持っていた。十二月、瑠佳が乾いた青空の写真を送れば、慎吾は作業場の窓に積もった雪を返した。六月には逆になる。
遠距離になった最初の年、慎吾は毛糸の手袋を送った。届いたとき、瑠佳の町は三十度だった。
「季節を考えて」
『そっちが日本と反対なのが悪い』
「南半球に謝って」
『代表者を出してくれ』
手袋は半年後、標高五千メートルの夜に役立った。それから二人は、今すぐ必要なものではなく、いつか必要になるものを送り合った。日焼け止め、木のスプーン、乾燥させたラベンダー、慎吾が削った小さな星。荷物にはいつも、未来の季節が入っていた。
五年目、瑠佳は十年間の観測計画に誘われた。二度とない仕事だった。
同じ日、慎吾は師匠から工房を譲られた。土地の癖まで知った木材と、待っている職人たちを置いてはいけなかった。
画面越しに報告し合い、二人は「おめでとう」と言った。
それから、長い沈黙が来た。
帰ってきて、と慎吾は言わなかった。
一緒に来て、と瑠佳も言わなかった。
どちらかの夢を愛の証明に差し出せば、きっと後で、その愛を恨むと思った。
「私たち、季節が合わなかったね」
瑠佳が冗談めかすと、慎吾は首を振った。
『合わなかったんじゃない。半分ずつだったんだ』
別れた三週間後、小包が届いた。慎吾が話し合いの前に送っていた、紺色のマフラーだった。瑠佳の町はまだ夏で、巻けば汗をかいた。箱の底には短い紙があった。
〈寒くなる頃も、たぶん好きだ〉
瑠佳は返事を書かなかった。
書けば、終わらせたはずの未来をまた待ってしまう。
半年後、砂漠に冬が来た。瑠佳は誰もいない観測ドームで、紺色のマフラーを巻いた。慎吾の町では、もう夏が始まっているはずだった。
望遠鏡の向こうで、何年も前に放たれた光が、今夜になって届く。
遠距離の恋も同じだった。
終わったあとまで、愛した季節だけが、遅れて正しい場所へ届いた。