夜勤表の白い枠
私の名前だけ、翌月の勤務表で白い枠に囲まれていた。
夜勤、夜勤、明け、夜勤。休みだったはずの日には赤字で《欠勤》。看護師長の柿沼宗徳は、掲示板の前で私の肩を叩いた。
「小檜山、若いうちは体力で覚えるんだ」
「この日は救急応援に入りました」
「記録がない。思い込みで勤務したことにするな」
記録ならある。点滴を確認した時刻、保管庫を開けた職員証、三十七人分の処置補助。それでも廊下で言い返せば、患者さんに聞こえる。
私は勤務表を撮影し、白い枠の数を数えた。前月は九つ。その前は七つ。同僚が交代を申し出てくれた日も、柿沼師長は「本人の訓練だから」と断った。
夜勤明けの文字が揺れても、薬の量だけは二度見た。明け方、眠れない患者さんの窓を少し開けると、冷たい空気が入った。「あなたも休みなさい」と言われ、私は笑った。休める日が消えているとは言わなかった。
勤務表の話は休憩室に置き、病室へ入るときは、いつもの声で名乗った。撮った表は日付ごとに保存し、差し替えられるたび前の画像と並べた。
翌週、病院機能評価の審査員が来た。
柿沼師長は私を指し、「要領が悪く、残業を自分で増やす職員です」と説明した。私は一歩後ろに立ち、爪の跡が残るほど勤務表の写しを握った。
午後、審査員が無作為に選んだのは、私が欠勤扱いにされた十四日の夜間救急だった。
電子カルテを開く。薬剤庫、ナースコール、病棟間の扉。画面の中で、私の職員証が一晩中働いていた。
「カードを誰かに貸したのでしょう」
柿沼師長はそう言った。
次に、勤務管理システムの編集履歴が映った。元の予定は《救急応援》。翌朝二時十三分、柿沼師長の端末から《欠勤》へ変更。私の休みを夜勤へ替えた十一件も、同じ時刻帯に並んだ。
師長が机の下で私をにらんだので、私は初めて勤務表から手を離した。
病院長が彼の認証札を外し、審査員が録音機を中央へ置いた。
「柿沼師長、ここからは勤務記録改ざんの聞き取りです」