夜明けの三百十二袋

穀物商会の倉庫では、毎月二十八袋の小麦が消えていた。

番頭は鼠のせいにした。倉庫番は役立たずだと殴られ、今朝ついに解雇を言い渡された。

「鼠が毎月きっちり二十八袋も運ぶものですか」

透架は昼間、倉庫の片隅で荷札を書くだけの臨時雇いだった。女に穀物の数が分かるものかと、番頭は一度も鍵を触らせなかった。それでも彼女は、帳簿の数字が毎月同じ二十八だけ減る不自然さを覚えていた。鼠なら雨の日と晴れの日で被害は変わる。人間の都合だけが、同じ数を繰り返す。

棚卸の夜、倉庫番と二人で袋を持ち上げ、隙間へ蝋燭を差し込んだ。麦の粉が喉へ入り、指先は麻袋で裂けた。番頭は外から「朝までに終わるわけがない」と笑ったが、透架は棚札を一枚終えるたび裏返した。未確認の札が消え、床へ並ぶ数字が増えるほど、倉庫番の背筋が戻っていった。

透架が言うと、番頭は帳簿を突きつけた。

「ここには三百四十袋とある。余所者は黙れ」

その二十八袋があれば、山村七十家族へ一週間分のパンを配れる。倉庫番の老人は三十年守った鍵を床へ置き、孫へ迷惑をかけぬよう自分が弁償すると言った。番頭は翌朝、帳簿どおりの三百四十袋を王都へ出荷すると急かしている。

前世で量販店の棚卸をしていた透架は、夜のうちに扉を封じた。棚ごとに札を付け、上段から順に、袋へ白墨で数を書いていく。同じ袋を二度数えず、数えていない袋を残さないためだ。

夜明け、倉庫の中央に数字が並んだ。

北棚八十。東棚七十二。南棚九十。西棚七十。

合計、三百十二。

帳簿との差は、やはり二十八袋だった。

番頭は「昨夜盗まれた」と叫んだ。透架は無言で封蝋を示す。扉も窓も、昨夜の印のままだ。

さらに棚卸表の端を指した。西棚の最下段だけ、袋番号が二百八十五から三百十二へ飛んでいる。欠けている番号は二十八個。番頭が管理する荷車の出荷札と同じ番号だった。

衛兵が裏庭の幌をめくると、王都へ私売りするはずの小麦袋が積まれていた。二十八。ひとつも違わない。

倉庫番の解雇状はその場で破られた。商会主は番頭から鍵束を奪い、透架へ渡す。

「一晩で、三か月の嘘を数え切ったか」

透架が作った棚卸表を両手で持ち上げ、商会主は全支店の責任者へ告げた。

「今日からこの数え方を使う。総倉庫長は透架だ」