字幕係は笑わない
半年に一度の査定面談で、画面の隅に「字幕担当」という参加者がいた。
カメラも音声も切ったまま、こちらの発言だけを機械的に文字へ変えている。課長は「聴覚支援の外部業者だ」と説明した。
私の評価は最低だった。
理由は、春の新サービス案を期限までに仕上げなかったこと。課長は、私が提出を一週間遅らせたため、発表が流れたと言った。
「反省文に同意してください。今回は昇進推薦を外します」
画面に電子署名欄が出る。
私は署名せず、字幕の一行を指した。
《提出日は四月十八日ではなく、四月十一日です》
字幕担当が、課長の発言を勝手に訂正していた。
「業者が口を挟むのはおかしいですね」
課長が慌てて参加者を削除しようとする。しかし人事担当が止めた。字幕担当の表示名を開くと、外部ドメインのアドレスが現れた。半年前に退職した、旧プロジェクト責任者のものだった。
課長は「勝手に紛れ込んだ」と言った。
私は共有フォルダの版履歴を表示した。企画書の初版は四月十一日二十二時三分、作成者は私。翌朝、旧責任者がコメントを付けている。ところが四月十八日、課長がファイル名を「初稿」に変え、提出日時の列を一週間後へ書き換えていた。
さらに会議の招待履歴では、字幕担当を招いたのも課長だった。前任者に「部下の遅れを証明してほしい」と頼み、断られたあとも、録音だけ取るつもりでリンクを送っていたらしい。
人事担当が退室させられた字幕担当を再招待した。
前任者は初めて声を出した。
「遅れたのは彼女ではありません。課長が発表枠を別会社へ譲るため、完成済みの案を寝かせたんです」
メールのCCには、その別会社の担当者と課長が並んでいた。
前任者は、さらにコメント削除履歴を開いた。四月十二日、課長は《完成済み。発表可》という承認を消し、その直後に別会社との会議室予約を入れている。予約名は《発表枠の譲渡》。遅延を示す記録は一つもなく、遅延を作るための操作だけが時系列に並んだ。
署名欄が消え、代わりに昇進推薦の承認画面が開く。
人事担当は私の名前にチェックを入れた。
「推薦を戻します。課長の査定権限は、今ここで止めます」