宅配ボックス六番
早蕨正宗が越してきたマンションには、宅配ボックスが五つあった。
ところが入居初日の夜、配送アプリに通知が出た。
〈六番ボックスへお届けしました〉
〈暗証番号 4180〉
正宗は何も注文していない。
エントランスを調べると、五番の横の壁に細い継ぎ目があった。暗証番号を押すと、壁が扉のように奥へ開いた。
中は宅配ボックスではなく、照明の暗い通路だった。
左右に段ボール箱が積まれ、それぞれ住人らしい名前と部屋番号が書かれている。
〈二〇三号室 矢部〉
〈五一一号室 木田〉
〈七〇二号室 室岡〉
管理人から「以前住んでいたが、挨拶もなく退去した」と聞いた名前ばかりだった。
小さな箱からは腕時計や鍵、入れ歯がのぞいていた。
大きな箱は、人が内側から寝返りを打つように時々へこんだ。
通路の最奥に、正宗宛ての箱があった。
靴箱ほどの大きさで、中には運転免許証と部屋の鍵が入っている。
偽物だと思った。
しかしポケットを探ると、免許証も鍵も消えていた。
箱の底には、不在票が一枚あった。
〈お届け先にご不在のため、お荷物を持ち戻りました〉
「ずっと家にいたぞ」
声に出した瞬間、通路の奥で電子音が鳴った。
〈ご不在を確認しました〉
正宗は扉へ戻った。
だが六番ボックスは内側から開かなかった。スマートフォンで管理会社へ電話すると、担当者は部屋番号を聞き、困惑した。
『八〇五号室は、現在ご在宅です』
「俺が八〇五号室の早蕨です」
『先ほど、防犯カメラでも確認しました。早蕨様はお部屋から出ていません』
アプリに新しい配送写真が届いた。
八〇五号室の居間で、正宗と同じ顔の男がテレビを見ている。男の足元には、今夜届いたはずの箱が置かれていた。
写真の下に配送情報が表示された。
〈お荷物 早蕨正宗 一個口〉
〈集荷元 八〇五号室〉
〈お届け先 六番ボックス〉
〈状態 配達中〉
背後で、大きな箱の蓋が一斉に開き始めた。
暗い隙間から何人もの声が、同じ言葉をささやいた。
「家を空けたね」
正宗の目の前に、成人男性が入る大きさの空箱が滑ってきた。
送り状の重量欄には、正宗が健康診断で量った数字が印字されていた。