家賃の三十一日

塔野真路は毎晩、玄関で一日の利用明細を見る。照明三分、給湯九分、共用回線二分。暮らしの細かな料金を寿命で払うのは、この都市では珍しくない。

恋人の雨津が泊まるようになって、表示には《来客》が一行増えた。

二人は狭い部屋で夕食を作り、交代でシャワーを浴び、同じ布団で眠った。来月、正式に同居登録をするつもりだった。

三十一日目の朝、玄関が開かなかった。

《未登録居住者を確認しました》

《滞在三十泊を超えたため、居住契約へ移行します》

《家賃:寿命三十一日》

この建物では、登録の有無にかかわらず三十泊を超えた者を住民とみなし、一か月分の家賃を本人の寿命から自動徴収する。それだけの規則だった。

「三十一日くらい、私も払えるよ」

雨津は笑って、端末へ顔を向けた。

決済音が鳴る。

彼女の膝が折れた。

真路が抱きとめると、手首の残量が赤く点滅していた。

《決済前:二十九日十八時間》

《決済後:残高不足》

《未納:一日六時間》

「何で、二十九日しか」

雨津は答えなかった。

三年前の治療費を寿命で払ったこと。今の仕事が決まるまで、食事も交通費も残り時間から出していたこと。真路には、全部現金でやりくりしていると言っていた。

自動徴収は途中で止まらない。未納分を払うまで、居住者の退去も認められない。玄関は内側から施錠された。

真路は自分の残量から一日六時間を送ろうとした。

《家賃は居住者本人からのみ徴収します》

「俺の部屋だぞ」

《新規居住者:雨津》

雨津は床に座ったまま、玄関へ背を預けた。

「同居、できたね」

真路は管理会社へ電話し続けた。返ってくるのは同じ文面だった。

《三十泊の生活実態を確認しています》

正午、雨津の指先が冷たくなった。

未納額は彼女の死亡で消えず、部屋に残された資産から回収される。端末が室内を査定し、冷蔵庫、端末、二人で買ったテーブルを差押え対象へ変えていく。

最後に、布団が選ばれた。

《共同使用による価値低下を確認》

真路は笑いそうになった。三十一日間、二人が一番長く一緒にいた物だった。

玄関の表示が更新される。

《居住者一名》

《家賃:寿命三十一日》

翌月から、その部屋は真路一人の寿命を引き落とす。雨津が払えなかった一日六時間だけは、誰の残量からも補えないまま、請求履歴に残り続けた。