寿命を半分にしない告白
この国では、分命樹の下で愛し合う二人が想いを告げると、残りの寿命が等しく分けられる。
片方に五十年、片方に十年残っていれば、二人は三十年ずつ生きる。王も貧者も変わらない、恋だけに許された奇跡だった。
治療師は、ソラヤの胸に灯る命火を見て言った。
「残り十二日です」
彼女はその足で、分命樹へ向かった。
木の下では、幼い頃から共に育ったケルンが待っていた。何も知らない彼は、指輪を握りしめていた。
「ソラヤ。ずっと言えなかった」
「言わないで」
「今日こそ聞いてほしい。君を愛している」
古木の枝が淡く光った。あとはソラヤが同じ言葉を返せば、ケルンの長い寿命は彼女へ流れる。
彼は来月、海峡を渡り、医師になるため王都へ行く。何年も学び、人を救い、家族を持つはずだった。その未来を、自分の十二日と混ぜて半分にすることなどできなかった。
ソラヤは笑った。
「私は、あなたを愛していない」
「嘘だ」
「幼馴染だから、勘違いしただけ」
「僕を見て言え」
「嫌いよ、ケルン」
枝の光が消えた。
彼は指輪を土へ投げ、振り返らずに去った。
ソラヤは拾わなかった。拾えば追いかけてしまうと思った。
十二日後、彼女は死んだ。
葬儀のあと、ケルンは治療師から封筒を渡された。中には、ソラヤの余命宣告書と一枚の紙が入っていた。
〈あなたを愛していました。
だから、あの木の下では嘘をつきました。
あなたの寿命を半分もらえば、私は長く生きられたでしょう。
でも、あなたが失う未来まで私の余命にしたくありませんでした。
これは返事ではありません。もう奇跡が起きない場所から送る、ただの告白です〉
ケルンは分命樹へ走り、根元を掘った。
投げた指輪は、雨に洗われながら残っていた。
彼は指輪を拾い、土に額をつけた。
「僕は、半分でよかった」
返事をする声はなかった。
春になると、指輪を埋めた場所から二本の芽が出た。一本はまっすぐ空へ伸び、もう一本は十二日で枯れた。
それでも枯れた芽の根は、長く生きるほうの根に絡んでいた。
ソラヤは寿命を分けなかった。
代わりに、自分がいなくなったあとも彼を生かし続ける痛みだけを、すべて彼へ残した。