屋上の海苔

昼休みになると、千紘は会社の屋上へ上がる。ベンチは一つだけで、給水塔の影がちょうど半分かかっている。

転職して三週間、食堂ではまだ誰と座ればいいか分からない。自分で握った二つのおにぎりを、毎朝古い弁当箱へ入れてきた。

今日は鮭と梅。蓋を開けると、海苔がご飯の湿気を吸って黒く艶めいている。ぱりぱりではないが、千紘はこの柔らかい海苔が好きだった。

一口かじったところで、屋上の扉が開いた。経理の小町が、コンビニ袋を提げて現れた。

「ここ、座ってもいいですか」

ベンチはほかにない。千紘が端へ寄ると、小町はカップ麺を膝に置いた。給湯室から運ぶ間に湯がこぼれたらしく、蓋の上が濡れている。

風が吹き、剥がしかけた蓋がめくれた。二人で慌てて押さえる。小町は笑い、千紘も口の中のおにぎりを急いで飲み込んだ。

「おにぎり、きれいな三角ですね」

「祖母に、角を作れって教わったので」

「うちは丸でした。母の手から出ると全部丸くなって」

それだけの会話で、また静かになった。眼下を電車が通り、遠くのパン工場から甘い匂いが流れてくる。カップ麺の湯気は風にちぎられ、千紘の海苔には昼の日差しが光った。

食べ終える頃、小町が「明日もここですか」と訊いた。

「雨じゃなければ」

「じゃあ、明日は丸いのを持ってきます」

翌朝、千紘はおにぎりを三つ握った。二つは三角、一つだけ両手の中で転がして丸くした。具はどれも梅だから、どれが当たるかで困ることはない。

昼の屋上で弁当箱を開けると、温め直していないご飯から、かすかに朝の台所の匂いがした。

小町は約束どおり丸いおにぎりを二つ持ってきた。形は少し平たく、中身は昆布だった。千紘の丸い梅と半分ずつ交換する。三角と丸が並ぶ蓋の上を風が渡り、海苔の香りを運んだ。午後、廊下ですれ違ったときには、二人とももう名前を呼んで挨拶できた。

帰宅後、空箱を洗うと海苔の小片が排水口の手前に残った。千紘は指でつまみ、明日の米を研ぐ。水の冷たさの向こうに、屋上の日差しと小町の笑い声がまだあった。