屋根の穴と豆のスープ

ドノヴァンが辺境へ持ってきた財産は、欠けた剣と、竜の爪痕が三本残る大盾だけだった。

救援の順番を巡って将軍に逆らい、騎士団を除名されたからだ。代わりに押しつけられたのが、雨漏りだけで作物を育てられそうな廃農家だった。

初日の空は、昼から鉛色だった。

畑を見れば、柵も納屋も倒れている。だがドノヴァンは屋根へ上がった。今夜眠る場所が濡れるなら、明日の開拓など始まらない。

残っていた瓦は三枚。穴は四枚分。

彼は迷った末、大盾の革紐を切った。

「お前も、もう矢を受けなくていい」

大盾を穴へかぶせ、梁に打ちつける。竜の爪痕から細い光が差したが、雨粒の通る隙間はなかった。最後の釘を打った瞬間、低い雷が鳴った。

屋根を降りる前に、ドノヴァンは盾の縁をもう一度踏んで確かめた。戦場では何百人もの背中を守った鉄板が、今はたった一人の寝床を守っている。役目が小さくなったのではない。守る相手を、自分で選べるようになったのだ。彼は余った革紐で煙突も縛り、軒下へ薪を移した。最後の一本を室内へ運び込んだとき、頬へ冷たい粒が落ちた。

直後に雨が来た。

屋根を叩く音は激しかった。けれど卓に置いた空の鍋へ、一滴も落ちない。ドノヴァンはそれを確かめてから、乾燥豆と燻製肉を煮始めた。

戸を叩いたのは、豆が柔らかくなった頃だった。

外には騎士団の副官が立っていた。

「団長が戻れと言っています。北の砦に竜が出ました。処分は撤回する、と」

謝罪ではなく、必要になったから呼ぶ。その言い方は何も変わっていない。

ドノヴァンは副官を中へ入れ、濡れた外套だけは火のそばへ掛けた。だが差し出された復帰命令書には触れなかった。

「返事を」と副官が急かす。

ちょうど鍋の蓋が、ことりと鳴った。白い湯気が上がり、豆と肉の匂いが狭い部屋を満たす。

ドノヴァンは二つの椀にスープを注いだ。

「今夜の任務は、屋根を守って温かいものを食うことだ」

外で竜のような雷が吠えた。大盾は微動だにせず、雨を受け止め続けていた。