帰ってから何日目
葦名直路は、六年ぶりに実家へ帰った。
連絡せず驚かせるつもりだったが、玄関には自分と同じ靴があった。踵の外側がすり減り、右の紐だけ短いところまで同じだった。
母は直路の顔を見ると、喜ぶより先に奥の階段を見た。
「どうして外にいるの」
「今、帰ってきたから」
父が母を押しのけた。
「荷物を置け。先にいくつか聞く」
飼っていた犬の名前。小学校で割った窓。父に隠した赤点の答案。直路はすべて答えた。左膝の傷も見せた。
それでも父は安心しなかった。
「今日は何月何日だ」
「十二月二十九日」
「家を出たのは?」
「六年前の四月」
二階で床が鳴った。
誰かが、直路の歩き方で廊下を歩いている。
母は夕食を出した。好物ばかりだったが、食器はすでに使われていた。味噌汁の椀には口をつけた跡があり、ご飯は半分減っている。
「先に帰った人がいるのか」
直路が聞くと、母は泣きそうな顔で言った。
「疲れているでしょう。今夜は部屋から出ないで」
昔の自室へ入れられ、外から鍵を掛けられた。
午前零時、扉の下から折った紙が滑り込んだ。
〈帰ってから何日目だ〉
直路は裏に〈今日〉と書いて返した。
しばらくして戻ってきた紙には、
〈俺は三日目。父さんたちは、どちらが古いか見ている〉
とあった。
直路は扉を叩いた。
「母さん、あいつは誰だ」
向こう側でも同じ声が叫んだ。
「母さん、こいつは誰だ」
父が二人を怒鳴りつけ、家は静かになった。
そのとき、背後の押入れから三回ノックがした。
襖の隙間から、別の紙が出てきた。
〈俺は六年目〉
〈家を出た覚えはない〉
直路が後ずさると、押入れの中で何人もの息遣いが重なった。暗闇には、同じ左膝の傷を持つ脚が並んでいた。
廊下で母が父に尋ねた。
「今度こそ、帰ってきた子かしら」
「全員がそう言う」
「朝になったら、どうするの」
父は長く黙った。
「一番、家を懐かしがらなかったやつを残そう。本物なら、もう帰りたいとは思わないはずだ」
鍵が回った。
扉の外には父と母、そして直路と同じ顔をした男が立っていた。
男は泣きながら笑った。
「おかえり。俺より先に帰ってたんだな」