店番は家族割になりません

 家がコンビニだと、反抗期になる暇まで店番に使われる。

 高校一年の娘は、土曜のシフト表から自分の名を消した。

「家族なんだから手伝って」

 母が書き戻す。

「バイト代も出してるでしょう」

「断る権利は?」

「人が足りないの」

「それ、私が家族だから解決する問題?」

 娘は制服のエプロンを置いた。

 母には、ただのわがままに見えた。小学生のころはレジ横で宿題をし、常連客へ愛想よく挨拶していた。最近は客に話しかけられても目を合わせない。

 ある晩、母は防犯映像を確認していて、理由を知った。

 常連の男性が娘へ言っていた。

「大きくなったね。彼氏できた?」

「前より愛想悪くなったな」

「小さいころは何でも話してくれたのに」

 娘は笑うよう求められ、家族の店だから逃げ場もなかった。

「どうして言わなかったの」

 母が尋ねると、娘は冷たく答えた。

「言ったよ。店に出たくないって」

「理由まで言ってくれなきゃ分からない」

「嫌だってだけじゃ足りないの?」

 母は返事に詰まった。

 翌週、店のシフトを作り直した。

 家族も希望日を出し、断れる。

 勤務中は従業員として時給を払い、家族だからという理由で残業させない。

 客から私生活へ踏み込まれたら、責任者が対応する。

 入口には小さな札も出した。

〈従業員への私的な質問、容姿への発言はご遠慮ください〉

 父は「客が減る」と心配した。実際、文句を言う客もいた。

 娘はすぐには店へ戻らなかった。

 一か月後、自分から日曜の早朝だけ希望を出した。

「無理しなくていいよ」

 母が言うと、娘は眉を寄せた。

「働きたいから入るの。家族サービスじゃない」

 初日のレジで、あの常連が来た。

「久しぶり。少しは愛想――」

 母が奥から出るより先に、娘が言った。

「その話は業務に関係ありません」

 声は震えていたが、顔はそらさなかった。

 客が黙って帰ると、母は拍手しそうになり、やめた。

 代わりに、休憩時間を記録するボタンを押した。

「十五分、休んでおいで」

「店長として?」

「店長として」

 娘はエプロンを外した。

「じゃあ、あとで母さんとして愚痴を聞いて」

 反抗期とは、家族を嫌いになる時期ではない。

 家族の中にも、自分の境界線を引き始める時期なのかもしれなかった。