忠誠の指輪は片方だけ光る
王城の婚約披露宴で、レオナールは杯を掲げたままセレネを見下ろした。
「この婚約は破棄する。君は私を疑い、毎晩のように行き先を尋ねた。そんな嫉妬深い女を公爵家へ迎える気はない」
彼の横では男爵令嬢ミレッタが、勝ち誇った笑みを隠そうともしない。招待客の前で泣かせるつもりなのだろう。彼はこの半年、セレネが外出するたび指輪を検め、何も出ないたびに「疑われる側の苦しみを覚えろ」と笑っていた。レオナールはさらに、婚約指輪へ魔力を流した。
「この指輪は互いの不貞を記録する。潔白な私が、疑われた屈辱を証明しよう」
その魔具を作らせたのは彼自身だった。セレネの交友を縛るため、契約工房へ「婚約期間中、配偶者候補以外と口づけした時刻と場所を記す」と細かく注文し、署名までした。
銀の輪から光が立ち上る。
まずセレネの頭上には、何も現れなかった。
次にレオナールの頭上へ、金文字が列を作った。
――第三月十二日、北塔客室、ミレッタ。
――第三月十九日、狩猟館寝室、ミレッタ。
――第四月二日、王都宿《白百合》、ミレッタ。
一行ごとに会場のざわめきが大きくなる。最後には、昨夜の日付まで刻まれていた。しかも各記録の末尾には、入室に使われたレオナールの家門鍵の番号まで添えられている。言い逃れを防ぐために、彼が工房へ追加させた項目だった。
「故障だ!」
レオナールが指輪を床へ叩きつけようとした瞬間、輪は彼の指へ食い込んだ。契約者による証拠破壊を防ぐ機能も、彼自身が追加させたものだった。
ミレッタが逃げようとする。しかし彼女の手にも、同じ工房の複製指輪が光っていた。レオナールが「妻となる証」と囁いて渡した品であり、裏側には彼の家紋と贈与日が刻まれている。
セレネは涙を拭う必要すらなかった。王座の前へ進み、婚約証書を返した。
「破棄をお受けします。ただし、有責者の記録は残してくださいませ」
国王が一度うなずくと、式部官が金縁の命令書を開いた。
「レオナール・ヴァルケンに対し、婚約契約違反による継承権停止命令を読み上げる」