押し入れ一周_相続会議
押し入れ一周、相続会議
祖母の四十九日、子ども三人と孫二人が、古い家の居間へ集まった。
目的は遺品整理。開始十分で、話は遺産争いになった。
「その茶箪笥は私が欲しい」
「置く場所ないだろ」
「兄さんこそ掛け軸の価値も知らないくせに」
「僕はレコードだけでいいから」
誰も欲しがらなかったのは、祖母のハムスター「ちりとり」だった。
賃貸はペット禁止。猫がいる。夜勤で世話ができない。全員がもっともらしい事情を述べるあいだ、ちりとりはケージの扉を鼻で押し、音もなく脱走した。
最初に気づいた孫が叫び、相続会議は捕獲作戦へ変わった。
ちりとりは仏壇の裏を抜け、茶箪笥の下へ入り、掛け軸の箱を一周し、レコード棚の隙間へ消えた。大人たちは膝をつき、尻をぶつけ、互いに「そっちへ行った」と怒鳴った。
追いかけるうち、茶箪笥の奥から古い紙袋が落ちた。
中には、家族の名を書いた小箱が五つあった。
長男の箱には、幼稚園で作った歪んだ粘土の皿。
長女の箱には、初任給で贈った安い口紅の空容器。
末の息子の箱には、家出した夜に置いていった電車の切符。
孫たちの箱には、短すぎる手紙や、折れた色鉛筆。
どれも売れない物ばかりだった。
箱の蓋には、祖母の字で同じ一文があった。
〈本人はいらないと言うでしょう。私がいるので取っておきます〉
誰も口を開かなかった。
ちりとりは最後に祖母の座布団へ上がり、ひまわりの種を一粒食べ始めた。五人はその周りへ座った。さっきまで値段を調べていた掛け軸も、誰が持つか決めかけた茶箪笥も、急にどうでもよくなった。
「うちなら飼える」
末の息子が言った。
「夜勤は?」
「朝は姉さんに来てもらう」
「勝手に決めないで」
「じゃあ週二回」
「床材は僕が買う」と孫が言った。
「病院は私が連れていく」と長女が続けた。
家は売ることになった。けれど片づけは急がず、毎週日曜に全員で集まると決めた。一日では終わらないほど、祖母が「いらない物」を残していたからだ。
ちりとりは何も相続しなかった。
ただ一周走って、家族から帰らない言い訳を取り上げた。