改札を開ける人
始発十五分前、海浜中央駅の自動改札が一斉に赤く閉じた。
保守会社の長峰省吾が駆けつけると、駅員は制御盤の前で再起動手順を開いていた。改札は十八台。再起動には七分かかる。ホームには夜行バスから降りた客が膨らみ、シャッター前まで列が伸びていた。
「閉じたのは何時何分ですか」
「四時三十八分。全部同時です」
省吾は機械の故障ではないと判断した。十八台が同じ瞬間に壊れることはない。監視画面では、中央サーバーとのハートビートが途切れている。だが隣駅は正常だった。駅ごとに持つ運賃表のキャッシュを開くと、昨夜の更新日時だけが空白になっている。
新路線の運賃改定ファイルが途中で止まり、この駅の改札だけが「正しい料金を判断できない」として閉じたのだ。
駅長は腕時計を見た。「再起動で直るなら急いでくれ」
「直るかもしれません。でも七分後には、客が階段まで詰まります」
省吾は再起動を止め、改札をフェイルオープンへ切り替えた。料金を取れないとき、安全のため扉だけを開く設定だ。会社にとっては損失になる。駅長が一瞬ためらったが、省吾はホーム映像を指した。列の先頭が押され、子どもを抱いた女性が壁に寄っている。
「今守るのは売上ではなく、人の流れです」
扉が開くと、駅員が声を張り、客をゆっくり通した。省吾は後で精算できるよう、通過人数と開放時刻を一分ごとに記録させた。無賃に見える通行も、記録があれば会社の判断へ戻せる。省吾は旧運賃表を手動で読み込み、更新ファイルの末尾に一行だけ欠けた駅コードを見つけた。完全なファイルへ差し替えると、十八台の表示が順に緑へ戻る。
始発が到着する音がトンネルから迫った。省吾は階段上の列が解けたことを確認してから、最後の設定を戻した。最後の一台を通常運転へ戻したとき、駅長は何も言わず、省吾の前に缶コーヒーを置いた。
その瞬間、無線が鳴った。
「隣の港南口、券売機で新しい定期が買えません」
省吾は缶をポケットに入れた。まだ温かいうちに飲める保証は、鉄道の仕事にはなかった。