改札前ベビーカー運行会議
夕方の中央駅で、幅の広い改札機が故障した。
その前に、双子用のベビーカーが止まった。母親は右へ行き、左へ行き、普通の改札を見てため息をついた。
「幅、足りますかね」
駅員が巻尺を出した。
「本体が七十六センチ。改札が五十五センチ。気合いでは二十一センチ不足です」
「畳めば通ります」
「双子を二人とも抱いて、荷物も持って?」
「気合いでは腕が二本不足です」
近くの客たちが足を止めた。
通勤帰りの女性が言った。
「赤ちゃん、一人なら抱けます」
学生が言った。
「荷物、持ちます」
旅行中の夫婦が、ベビーカーを畳む係になった。
「では臨時運行を開始します」
駅員が宣言した。
一号車――眠っている兄。
二号車――靴下を脱ごうとしている妹。
貨物車――おむつ袋、買い物袋、謎に大きなぬいぐるみ。
車体――畳まれたベビーカー。
母親は何も持たない状態になり、かえって落ち着かなかった。
「私、何をすれば」
駅員は切符を指した。
「お客さまは改札を通過してください。編成全体が迷子になります」
一行は普通の改札を順番に通った。
途中、学生の持つ買い物袋からネギが飛び出し、旅行者の帽子に刺さった。妹は通勤女性の眼鏡を奪い、兄は目を覚まして駅員へ泣いた。
「運行に多少の乱れが出ています!」
誰かが笑い、母親もつられて笑った。
改札の向こうでベビーカーを広げ、赤ん坊と荷物を元へ戻す。作業が終わると、通勤女性は発車案内を見て青ざめた。
「電車、行っちゃった」
学生も同じ方向だった。
「次、五分後です」
「では五分、休めますね」
母親は自動販売機で温かい飲み物を買おうとしたが、全員が辞退した。
駅員だけが言った。
「お気持ちは、広い改札の修理を急ぐ燃料にします」
翌週、改札は直った。
脇には駅員手書きの札が貼られていた。
〈幅の広い改札はこちら。
故障時は、気合いではなく人を呼んでください〉
その下へ、誰かが小さく書き足した。
〈臨時編成、随時募集中〉
数日後、通勤女性は同じ改札で、杖をついた人の荷物を持った。学生は大きな旅行鞄を押す人へ声をかけた。
あの日の乗客名簿は残っていない。
それでも、改札を越えるたび、臨時編成は少しずつ別の形で走り続けていた。