攻撃しない号令役

リオナは戦闘中、「今」としか言わなかった。

火術師が息を吸う前、盾役が踏み込む前、剣士の足が滑る前。その短い声に合わせると、不思議なほど攻撃が重ならず、誰も互いの邪魔をしなかった。

だが成果板が示す彼女の貢献は1%。敵へ傷を与えず、治癒もしていないからだ。

隊長マハドは勝利の宴で腕輪を掲げた。

「声を出すだけで分け前を得る者は、寄生と同じだ」

リオナは反論せず、次の討伐では後方へ下がった。命令どおり、声も出さなかった。

沼巨人が現れると、マハドは全員へ突撃を命じた。火球は振り上げた盾へぶつかり、剣士は槍役の足を払った。治癒術はまだ傷のない者へ飛び、本当に倒れた者へ届かなかった。

「勝手に動くな!」

怒鳴ったマハド自身が、仲間の魔法に背を焼かれた。

リオナは唇を噛んだ。黙っていれば、自分を追い出した者たちが失敗する。それで胸が晴れると思っていた。けれど泥へ沈む仲間の手を見た瞬間、そんな勝利はいらないと分かった。

彼女は剣の腹を小石で叩いた。

乾いた音が沼へ通る。

「今」

盾が上がる。そこへ火球が当たり、炎が広く砕けた。

「今」

炎の陰から槍が伸び、巨人の膝を折る。

「今」

剣士が倒れた巨体を駆け上がり、戦いは終わった。

盾役は焼けた腕を押さえながら、これまで自分が仲間の魔法を邪魔しなかった理由を悟った。火術師も、詠唱が妙に短く感じられた夜を思い出す。リオナは技を増やしたのではない。全員が持つ力を、ぶつからない場所へ置いていたのだ。

帰還後、マハドは皆が自分の命令を聞かなかったせいだと報告した。成果板はその言葉を拒むように白く光り、戦闘中の呼吸、視線、詠唱の開始を線で結んだ。ばらばらだった働きが成果へ変わる瞬間には、必ずリオナの声がある。

マハドが隊長章を押さえるより早く、腕輪の権限が切り替わった。

リオナはもう「今」と言わなかった。全員が、彼女の次の言葉を待っていたからだ。

《連携貢献・真正算定》

申告値:1% → 真値:98%

働き順位:首位 リオナ

役割更新:掛け声係 → 戦闘指揮官

旧隊長マハド:発令権停止