攻撃力ゼロの反乱
城門前で味方NPC兵が一斉に剣を向けたとき、水城セリカは初心者用の木剣を抜いた。
《練習剣デバッガー》
攻撃力:0
効果:命令タグにのみ1ダメージ。
「そんな玩具で何をする!」
ギルド長の怒声を背に、セリカは先頭の兵士ガダンを斬った。HPは減らない。代わりに彼の額に浮かんでいた《迎撃せよ》という赤い文字へ亀裂が入る。
もう一撃。
命令タグが砕けた。ガダンの剣先が下がる。
「……なぜ、私はあなたを敵だと思っていた?」
周囲の兵士たちは命令どおり襲いかかる。セリカは攻撃を避けながら、木剣で額の文字だけを壊していった。《殺せ》《門を守れ》《疑うな》。タグを失った兵士は皆、戦う理由を尋ね、やがて武器を置く。
攻略目標は城内の暴君を倒すことだった。けれど門の向こうに王はおらず、巨大な命令生成装置だけが回っている。ギルド長は剣を振り上げた。
「装置を壊せばクリアだ!」
セリカは木剣の説明を見直した。攻撃力はゼロ。世界そのものには傷をつけられない。壊せるのは命令だけだ。
装置から最後のタグが飛び、ガダンの額へ貼りつく。
《セリカを殺せ》
ガダンは剣を上げた。セリカは逃げず、木剣を彼へ差し出す。
「自分で決めて」
ガダンは木剣を受け取り、自分の額を斬った。タグが砕ける。同時に城中の兵士が、誰に命じられるでもなく装置を取り囲んだ。破壊はできない。だから全員で背を向けた。
命令を受け取る者がいなければ、装置はただ空回りする。暴君とは王ではなく、従うことを前提にしたシステムだった。
《メインクエスト「王城制圧」失敗》
《隠しクエスト「攻撃力ゼロの反乱」達成》
自由になった兵士たちは、全員が同じ道を選んだわけではない。門を開ける者、負傷者を運ぶ者、装置の前に残って次の命令を読む者。統率は失われたが、混乱の一つ一つに本人の理由があった。
ガダンは木剣をセリカへ返さず、隣の兵士へ渡した。
《命令対象:0。NPC軍の所属を“王国”から“自己決定”へ変更します》