敵の色をした灯台
「色を変えるだけ? 祝祭の染物屋にでもなれ。戦場では無能だ」
王城の祝福式で、王弟セドリックはエメルの鑑定票を脇へ投げた。
《スキル:染色――触れた無生物を、望む一色に変える》
重さも硬さも魔力も変わらない。赤い鉄は赤いままの鉄で、金色の石は金にならない。勇者候補たちが剣や雷の加護を授かる横で、エメルだけが城壁塗装の作業班へ回された。
塗装班で渡されたのは、敵味方識別灯の補修台帳だった。古代甲冑には心がなく、見える色だけで忠誠を決める。職人たちは「色など目印にすぎない」と言ったが、エメルには逆に思えた。目印しか理解できない相手には、色こそ命令そのものだった。
三日後、北の平原を敵国の自動甲冑が埋めた。
中に兵は入っていない。丘の指揮灯台が放つ色を見分け、青い印を味方、赤い印を敵として進む古代兵器だ。王国軍が赤い旗を捨てても、甲冑は城壁に刻まれた王家の紋章を敵色として読み取り、迷わず迫ってくる。
「灯台を壊せ!」
セドリックが叫ぶが、灯台は敵陣の奥だ。騎兵を出せば鋼の群れに呑まれる。
塗装桶を抱えていたエメルは、逆に城の最上階へ走った。
「逃げるなら地下だぞ」
「灯台へ行く必要はありません。あれが見ている色を変えればいい」
彼が触れたのは、王城尖塔の避難用投光器、その透明な集光レンズだった。鏡で向きを変えられる古い灯具で、今は敵の丘も照らせる。
エメルの指先からレンズが赤に染まり、通った白光も深紅へ変わった。
「敵の灯台へ向けてください」
職人が鏡を回す。一本の赤い光柱が平原を越え、青く輝く敵の指揮灯台を丸ごと塗りつぶした。
自動甲冑が一斉に停止した。兜がぎりぎりと回り、最も大きな赤い標的を捉える。城壁の小さな紋章ではない。自軍の丘に立つ、光で赤く染められた指揮灯台だった。
鋼の軍勢は反転し、自軍の丘へ突撃した。指揮灯台が踏み潰されると、甲冑は糸を切られたように倒れた。
セドリックは泥に落ちた鑑定票を拾い、自分の袖で拭った。
「城一つを筆先で守った者を、染物屋とは呼べんな。宮廷戦術官の欄を空けろ。そこへエメルの名を書く」