既読がついた裏クラス
二年三組の裏グループには、三十二人中、たった一人だけ入っていなかった。
小鳥遊紬だ。
昼休み、黒岩莉子は教壇に紬の作文を貼り、「貧乏人の夢」と赤字で書き足した。笑うクラスメイトへスマートフォンを掲げる。
「裏クラスにも上げとく。消したら小鳥遊が先生に泣きついたって分かるから」
紬が作文を剥がそうとすると、莉子は手を叩いた。
「触った。証拠隠滅ね」
担任が入ってきても、莉子は澄ました顔で言った。
「先生、小鳥遊さんが自分で落書きして、私たちを悪者にしています」
味方をする声がいくつも上がる。担任は困ったように紬を見た。
紬は泣かなかった。机の上の学級用タブレットを一度だけ回転させる。
画面には、莉子のスマートフォンが映しているのと同じ裏グループが開かれていた。
「どうして、それを」
「昨日、あなたが学級端末でログインして、ログアウトしなかったから」
莉子は鼻で笑った。
「勝手に見たなら、あんたが処分されるよ」
「見ていません。今朝、端末が自動で授業配信を始めました」
黒板上のランプが赤く点滅している。今日は公開授業の日だった。教室の映像と学級端末の画面は、保護者会館へ生中継されている。
裏グループには、紬の弁当を捨てた動画、上履きを便器へ落とした写真、「死んだら席が広くなる」という莉子の音声が、送信者名と時刻つきで流れ続けていた。欠席した日に机へ花を置き、葬式ごっこをした映像まである。いま投稿された作文の写真には、撮影直前、莉子自身が赤ペンを持つ姿まで鏡に映っている。
廊下がざわめき、教頭と保護者代表が入ってきた。
莉子は慌てて削除を押した。だが画面には『学校管理者によって保全済み』と表示される。
「冗談だったんです。みんなもやってた」
紬は初めて莉子を見る。
「私は三か月、読まないふりをしました。でも、今日は学校が読みました」
「その言葉も、もう既読です」
教頭が印刷された通知を開いた。
「黒岩莉子。集団いじめの主導、証拠隠滅未遂により、ただいまから出席停止処分とする」