既読をつけないで
環は、私が傷つかないように言葉を選んでくれる。
五人のグループチャットで返信が途切れた夜も、「せりは気にしすぎるから、今日は既読をつけないで」と個別に連絡をくれた。私は言われた通り通知を切った。翌朝見ると、会話は食事会の日程まで進んでいたが、環が私の代わりに「その日は体調が悪いみたい」と断ってくれていた。
私はまだ予定を伝えていなかったけれど、環には分かるのだ。
彼女は私の文章も整えてくれる。謝りすぎ、絵文字が重い、長文は怖い。送信前の画面をスクリーンショットにして渡すと、赤い丸をつけて返してくる。ある日、私はグループへ「最近、置いていかれている気がする」と書いた。環は送る前に消し、「こういうのは皆を責めるから」と自分の端末へ保存した。
もう一つ、環は私のスマートフォンで指紋を登録した。過呼吸になったとき、代わりに連絡するためだという。私の指では開かないことが時々あったが、乾燥のせいだと思った。
環だけは私を置いていかない。大学を中退したときも、恋人と別れたときも、皆が私から距離を取る理由を丁寧に教えてくれた。「今は話しかけないでほしいって」「あの子、せりのこと重いみたい」。聞くたび泣いたが、知らずに嫌われ続けるより優しい。
誕生日の前夜、環が浴室にいる間、彼女の端末に通知が出た。私たち五人とは別のチャットだった。
〈せり抜きの誕生会、店ここでいい?〉
〈プレゼント、本人に渡せるかな〉
〈環、今年こそ連れてきてよ〉
指が震えた。続く履歴には、私が送った覚えのない文章が並んでいた。
〈みんなといると病気が悪化するので、もう誘わないでください〉
〈誕生日も一人で過ごします〉
〈環以外からの連絡は怖いです〉
送信者は私だった。
浴室の扉が開き、環がこちらを見た。怒る代わりに、濡れた手で私の頬を包んだ。
「見ちゃったんだ。大丈夫、また私が説明してあげる」
翌朝、グループチャットは消えていた。環は、皆が私を裏切った証拠だと言った。
新しく作られた二人だけの画面で、最初のメッセージはもう既読になっていた。