明日の訃報欄
地方紙の校閲部で働く宇治橋紅葉は、午前一時になると動き出す古いプリンターを任されていた。
誰も操作していないのに、一枚だけ紙を吐き出す。
そこには翌日亡くなる人物の名前、時刻、死因が、新聞記事の形で印刷されていた。
最初は悪戯だと思った。
〈会社員男性、午前七時四十分、駅前で看板落下により死亡〉
翌朝、記事どおりの事故が起きた。
次はガス爆発、次は転落。時刻まで一分も違わない。
編集長の久慈原峻吾は、紙を鍵付きの箱へしまった。
「外へ漏らすな。未来を変えようとすると、もっと悪い形で当たる」
四枚目には、紅葉の高校時代の恩師の名があった。
〈午後六時十分、河川敷でひき逃げ〉
紅葉は匿名で恩師へ連絡し、その日は外へ出ないよう頼んだ。
翌朝、恩師は自宅の車庫で死亡していた。
新聞には〈車両の誤発進〉と載った。
「予知が書き換わった」
久慈原は残念そうに言った。
紅葉は印刷された原稿を調べた。
文書の作成者欄には、毎回、久慈原の社員番号が残っていた。印刷時刻は午前一時だが、原稿の作成日時はその前日の夕方だった。
恩師の記事には、警察も公表していない傷の位置や、車庫の暗証番号まで書かれている。
さらに久慈原のロッカーから、落下看板の固定具、ガス管用の工具、恩師宅の合鍵が見つかった。
予知ではない。
久慈原は記事を先に書き、そのとおりになるよう人を殺していた。
紅葉は証拠を撮影し、警察へ送信しようとした。
午前一時。
背後のプリンターが動いた。
〈校閲部員、宇治橋紅葉さん死亡〉
〈午前一時十二分、社屋地下の輪転機へ転落〉
〈警察は誤って安全柵を越えた事故とみている〉
現在時刻は一時九分だった。
地下へ続く扉が開いた。
久慈原が、安全柵の鍵を指で回しながら立っている。
「警察へ送る前に、見出しを確認してくれないか」
紅葉は後ずさった。
「どうして、こんなことを」
「予知の的中率は、この新聞で唯一、落としてはいけない数字なんだ」
久慈原は原稿へ目を落とした。
「あと三分ある。誤字があれば直していいよ」
記事の末尾には、すでに校了印が押されていた。