曜日だけの日記

 老時計師が毒殺され、住み込みの介護士が逮捕された。

 決め手は、遺体のそばに置かれた日記だった。日付は切り取られ、曜日だけが残っている。

〈月曜。新しい介護士が来た。薬の棚をしつこく尋ねる〉

〈火曜。金庫の前に立っていた〉

〈水曜。遺言を見せろと言われた〉

〈木曜。薬瓶が一本なくなった〉

〈金曜。茶に妙な苦みがある〉

〈土曜。あの人の目が怖い〉

〈日曜。今夜、私は殺される〉

 一週間で疑念が殺意の確信へ変わったように読める。日記を見つけた甥は、取調室で何度も言った。

「叔父は最後の七日間、怯えていたんです」

 介護士は、三か月前から働き始めたことは認めたが、金庫にも遺言にも触れていないと否定した。

 私は日記を机へ並べ直した。紙の色が少しずつ違う。月曜の端には、若い柿の木へ支柱を立てたとある。木曜には、その柿の枝が二階の窓を叩いて眠れないと書かれている。七日で木が屋根まで育つはずがない。

 切り口を光に透かすと、どの紙片にも同じ文字の下半分が残っていた。

〈六月二十一日〉

 それは普通の日記ではなく、同じ月日を十年分、一ページに記す連用日記だった。甥は十年の中から曜日の異なる七つの記述を切り出し、月曜から日曜へ並べ替えていたのだ。

 新しい介護士が来たのは十年前。金庫の前にいたのは亡くなった妻。遺言を求めたのは長女。消えた薬瓶は、老時計師自身が病院へ持参していた。

 別々の年、別々の人間について書かれた不安が、並べ替えられた途端、一人の女による一週間の犯行計画になった。

「では、日曜の記述は?」

 若い刑事が尋ねた。

 その一行だけ、紙ではなく甥が用意した新しい台紙へ直接書かれていた。筆圧は強く、インクは乾いて間もない。文字は香典帳にある甥の署名と一致した。

 借金を断られた甥は叔父を毒殺し、古い日記で介護士を犯人に仕立てたのだ。

 手錠を掛けられながら、甥は呟いた。

「曜日順なら、誰だって一週間だと思う」

「ええ」

 私は、ばらばらになった十年を元のページへ戻した。

「だから殺したのは毒だけではありません。あなたは時間まで偽造したんです」