最終利用は昼食
【社員食堂利用記録・内部監査報告】
対象者:東雲禎一
所属:経理部
状況:三月十二日より所在不明
会社側は、東雲が三月十五日まで出勤していたと説明している。
根拠は社員食堂の利用記録である。
十二日から十五日まで毎日、本人のカードで定食が購入され、返却口の重量計では「完食」と判定されている。
しかし家族によれば、東雲は十一日に顎の手術を受け、二週間は固形物を食べられなかった。
三月十三日の献立は骨付き鶏。
十四日は厚切り豚カツ。
十五日は硬いフランスパンを使ったサンドイッチだった。
食器返却時の自動撮影画像を確認した。
三日分すべて、漬物だけが手つかずで残され、ソースは皿の左下へ円を描くように拭われている。
同じ食べ方をする人物がいた。
経理部長である。
部長自身の食器画像と比較したところ、漬物の残し方、ナイフの置き位置、紙ナプキンを三角に折る癖が一致した。
さらに過去五年分を調べると、不正会計を指摘したあと「自己都合退職」とされた社員が三名いた。
三名とも退職届提出後に所在不明。
そして全員、家族が最後に姿を確認した日より三日から五日後まで、社員食堂で食事をした記録が残っていた。
画像に写る空の皿は、どれも同じ形でソースが拭われていた。
【部長への聴取】
「カードを預かって、退職者の未使用ポイントを消化しただけだ」
部長はそう説明した。
「食事記録を本人の出勤証明として警察へ提出したのは、なぜですか」
「会社にいたものは、会社にいた。それだけだよ」
聴取後、監査担当者の社員食堂アプリへ通知が届いた。
〈明日の昼食を予約しました〉
〈利用者:内部監査室〉
〈メニュー:おまかせ定食〉
担当者は翌日、休暇を取る予定だった。
予約を取り消そうとしたが、管理者権限で固定されている。
同時に人事システムからメールが来た。
〈退職日は明日付で承認されました〉
申請した覚えはない。
部長は向かいの席で、漬物を皿の端へ寄せながら言った。
「安心してください。昼食の記録はきちんと残します」