本日の欠席者_一名と一匹
本日の欠席者、一名と一匹
【四月九日 保護者連絡】
百目木広真、本日も欠席します。
転校後、校門へ近づくと息が苦しくなるようです。申し訳ありません。
【担任返信】
謝る必要はありません。
教室へ来る以外にも、学校とつながる道を探しましょう。
【四月十六日 広真本人】
オンライン授業、顔は出さなくてもいいですか。
カメなら出せます。
【担任返信】
ぜひ紹介してください。
画面に現れたのは、手のひらほどのニホンイシガメだった。名前は「よりみち」。広真が幼いころ、祖父と正式な飼育個体を譲り受けたという。
広真は自分の顔を映さず、よりみちの甲羅だけを映した。
「こいつ、急ぐと隠れます。待っていると出てきます」
それが、転校後に級友へ話した最初の言葉だった。
【五月二日 生徒からの質問】
よりみちは何を食べますか。
冬はずっと寝ますか。
甲羅を触ってもいいですか。
【五月二日 広真】
質問が多いので、金曜に説明します。
甲羅を叩くのは禁止です。
金曜の配信は二十分の予定が四十五分になった。広真は水換えの仕方を見せ、飼い始める前に寿命や設備を調べること、野外へ放してはいけないことまで話した。声は途中で何度か震えたが、誰も続きを急かさなかった。
【六月十四日 担任】
理科室のカメ用ライトが点灯しません。
相談に乗ってもらえますか。
【六月十四日 広真】
写真を送ってください。
たぶん電球ではなくソケットです。
翌週、広真は放課後の無人の校舎へ来た。よりみちを入れたケースを両手で抱き、裏門から理科室まで歩いた。修理を終えると、廊下の向こうに級友たちがいた。
迎えに来たのではない。広真に見つからない距離で、教室の札を持って立っていた。
〈ここから先も、よりみち可〉
広真は笑い、でも教室には入らず帰った。
【九月二日 保護者連絡】
本日、広真は登校します。
ただし一時間目まで。カメ同伴です。
【担任返信】
承知しました。
本日の欠席者はゼロ名です。
同伴者は一匹です。
朝、広真は校門の前で立ち止まった。ケースの中で、よりみちが首を引っ込めた。
「急ぐと隠れるよな」
広真はベンチに座った。五分後、よりみちが顔を出した。十分後、広真も立ち上がった。
二人が教室へ着いたとき、誰も拍手をしなかった。
ただ、窓際に日当たりのよい席が二つ、並べて空けてあった。