死刑は毎年やって来る
杵島遼真は、毎年十一月六日に死刑を執行された。
不死化後の刑法では、死刑は廃止されなかった。心停止のあと再生槽で蘇生し、翌年また執行する。政府はそれを「判決の継続的実現」と呼んだ。
遼真は二十七歳のとき、飲酒運転で歩行者を死なせた。被害者は不死化処置前の十五歳だった。遼真だけが事故から再生し、少女だけが帰らなかった。
八十七回目の執行日も、傍聴席には少女の母親がいた。白髪にならない黒い髪、変わらない細い肩。遼真は蘇るたび、彼女の顔だけを覚え直した。
執行前には毎回、反省確認の面談があった。遼真が同じ謝罪を口にすると、判定AIは高い反省値を出した。だが彼自身には、その言葉が八十七回こすられた硬貨のように、薄く、誰のものでもなく感じられた。
八十八年目、母親は来なかった。代わりに一通の申立書が届いた。
――刑の停止を求めます。
遼真は冗談だと思った。翌月の審理で、母親は画面越しに言った。
「あなたは年に一度死ねる。でも私は、娘のいない三百六十五日を生きる。あなたの処刑を見届けることが、いつの間にか私の仕事になっていた」
「許すんですか」
「許しません」
答えは早かった。
「ただ、あなたを憎むことで娘を覚えるのをやめます。娘はもっと、くだらない子でした。靴下を裏返しに脱いで、プリンを二個食べるような」
裁判AIは死刑を無期奉仕刑へ変更した。遼真は刑務農園へ送られ、絶滅寸前の果樹を育てることになった。実がなるまで七十年かかる品種だった。
最初の苗を前に、遼真は途方に暮れた。これまでは一年を耐えれば、いったん死ねた。今度は七十年後の収穫まで、自分で日々をつながなければならない。
彼は母親へ手紙を書いた。謝罪ではなく、作業報告だけを書いた。返事はなかった。それでも毎年、少女の命日に一本ずつ苗を植えた。
九十年目の十一月六日、遼真は処刑台ではなく畑で目を覚ました。初めて実った小さな果実は、驚くほど酸っぱかった。
彼は顔をしかめ、それを最後まで噛んだ。死ぬより難しい刑が、ようやく始まった。