毒王蛙の涙は嘘だけを溶かす
王太子を毒殺しかけた罪で、薬師ミレナは処刑台ではなく毒沼へ送られた。
「無実なら、毒王蛙を倒して解毒薬を持ち帰ってみせろ」
宰相は笑った。誰も戻らない場所へ追放しただけだ。だがミレナには、初討伐したボスから限定品を確定で得る《希少滴固定》がある。
王太子を救い、自分の名を取り戻すために必要なのは、毒王蛙が一度しか流さない《無垢の涙》だった。沼の毒気は薬師の知識で中和できる。問題は、蛙が吐く毒を浴びれば一呼吸で心臓が止まることだ。
三日後、謁見の間へ泥だらけのミレナが戻ると、王太子の呼吸は糸のように細くなっていた。護衛が剣を抜く。宰相だけが余裕の笑みを崩さない。
「蛙はどうした」
ミレナは答えず、小瓶を掲げた。中には透明な雫が一滴。毒王蛙の舌を薬草の粉で痺れさせ、跳んだ先へ自らの毒液を誘導し、最後に心臓を刺して得た限定ドロップだ。帰路で靴底は溶け、足は血だらけになったが、小瓶だけは胸元で一度も揺らさなかった。
「それを飲ませれば、証拠も消えるぞ」
「いいえ。これは毒を消す薬ではありません」
ミレナは雫を王太子の唇へ落とした。
透明な光が喉を下り、皮膚の下を巡る。王太子の胸から黒い靄が引き抜かれ、細い糸になって空中を走った。糸は毒の出所へ戻る性質を持つ。謁見の間を横切った黒糸は、宰相の指にはまる印章へ吸い込まれた。
印章が割れ、内側から乾いた毒粉がこぼれる。
静寂の中、王太子が大きく息を吸った。
「昨夜、薬を運んだのは……宰相だ」
護衛たちの剣先が一斉に向きを変える。宰相は印章を隠そうとしたが、黒く染まった手までは隠せなかった。
ミレナは王太子の脈を確かめ、処刑命令書を宰相の前へ置いた。
「毒も嘘も、出所まで戻しました」
王太子が自ら命令書を裂く。続いて、薬師長の徽章をミレナへ差し出した。先ほどまで彼女へ石を投げていた廷臣たちは、黒い印章を避けるように道を開ける。
その瞬間、空になった小瓶の底に遅れて表示が灯る。
【ボス限定SSR《無垢の涙》――完全解毒・真犯人特定、世界初達成】