水の止まった十一階

市の水道受付で夜番をしていた槙島奏汰に、十一階の住人から電話が入った。

「急に水が出ません。道路工事で管を切ったんじゃないですか」

外は冷たい雨で、近くでは老朽管の交換工事が続いていた。机の周りでは、現場班を呼ぶべきだという声が上がる。道路を掘り返すなら、一分でも早いほうがいい。

奏汰は受付番号を発行しながら、住所だけでなく階数を聞き直した。

「一階の共用水栓も止まっていますか」

管理人が見に行くあいだ、奏汰は断水図を開いた。周辺に予定も事故もない。さらに同じ建物から届いた三件を並べると、八階、十階、十一階。低層階からの通報は一件もなかった。

「道路ではなく、建物側です」

奏汰は現場班への一斉連絡を止め、建物管理会社へのエスカレーションに切り替えた。上層階だけ止まるなら、地下の受水槽から水を押し上げる設備が疑わしい。道路班を呼べば、雨の中で交通規制を敷いたあとに、原因が敷地内だと分かる。

管理人が戻った。

「一階は出ます。地下で警報が鳴っています」

設備会社が到着すると、点検後に戻し忘れたブレーカーが落ちたままだった。住人には復旧見込みをまとめて案内し、乳児のいる世帯には管理室から備蓄水を届けてもらった。

市の道路班には出動保留を伝えた。もし本管破損なら周辺の水圧も下がるが、監視値は平常のままだった。奏汰はその数字も受付記録に残し、「建物側だと思う」ではなく、なぜそう判断したかを朝番へ渡した。似た通報が増えたとき、最初から掘削車を向かわせないためだった。

電話の女性は、水が蛇口を叩く音を聞かせてくれた。

「市役所に怒鳴って、すみませんでした」

「水が出ない夜なら、怒りたくもなります」

奏汰は謝罪を受け取る代わりに、濁り水が収まるまでの注意だけを短く伝えた。

管理会社から届いた復旧時刻も、同じ受付番号へ結びつけた。

記録を閉じると、午前零時を回っていた。外の工事班から、別の道路で水が噴いていると無線が入る。

今度の断水図には、赤い点が一つ増えていた。