水平器の青い泡

築四十年のシェアハウスで、食卓が揺れるようになった。

汁物を置くたび波が立つ。住人は雑誌を脚の下に挟んで済ませていたが、牧瀬冬馬だけは「みっともない」と言い、土曜の朝から工具箱を広げた。

久慈壮真は二階へ逃げようとした。

「押さえて」

「俺、今日出かける」

「靴下のままで?」

半年ぶりに交わした会話がそれだった。二人は同じ専門学校を辞め、この家で再会した。冬馬は就職し、壮真は仕事を転々としている。最初は夜ごとにゲームをしたが、壮真が冬馬の紹介した会社を三日で辞めてから、食卓でも目を合わせなくなった。

天板を裏返すと、一本の脚を留める金具が割れていた。冬馬は木材で補強板を作り、壮真に電動ドライバーを渡した。

「まっすぐ入れろ」

「それくらい分かる」

「分かってて斜めにするのが、お前だろ」

ねじは途中で噛んだ。壮真が舌打ちすると、冬馬は奪わず、水平器を天板に置いた。透明な管の中で青い泡が端へ寄っている。

二人で脚を押し、ねじを抜き、穴を少しずらして開け直した。失敗の跡は補強板の陰に残った。

「会社のこと、悪かった」

壮真が言うと、冬馬は木くずを払った。

「紹介した俺の顔が潰れたと思ってるなら、そこじゃない」

「じゃあ何だよ」

「帰ってきたのに、三日間、飯も食わずに部屋へ籠もったこと」

壮真は返せなかった。辞めた夜、玄関まで戻りながら、笑われる気がして公園で朝を待った。誰にも話していない。

食卓を起こす。水平器の泡は中央で止まった。冬馬は四脚の椅子を戻したが、壮真の椅子だけ壁際に残っていた。最近ずっと、彼が食事を部屋へ運んでいたからだ。

冬馬はその椅子を持ち上げ、補強した脚のそばへ置いた。

「そこ、また沈むかもしれない。座って見張れ」

「修理した意味ないだろ」

「壊れたら次はお前が直せ」

昼になり、他の住人がパンを持って集まった。壮真は自分の椅子を引く。食卓はわずかにも揺れなかった。それでも彼は、足裏で床の傾きを確かめながら、工具箱を自分の椅子の下に残した。