氷冠宮の空席

敗戦国の第三王子ユーリオには、北方女王との婚姻が命じられた。港を守れなかった将として、王族の血を差し出せば民は助かる――兄王はそう言った。

氷冠宮の大広間で、ユーリオは青い婚礼衣を着せられた。失った港の名が刺繍されている。撤退命令を出したのは自分だ。船を残せなかった。あの判断を臆病と呼んだ仲間たちが、救いに来る理由などなかった。兄王は三人へ、婚礼に近づけば爵位も職も奪うと通達している。ユーリオはそれを知っていたからこそ、助けを求める手紙を暖炉で燃やした。

女王が銀杯を差し出したとき、天窓が割れずに、静かに開いた。

女騎士ブリュンが雪まみれで降り立ち、自分の毛皮の外套をユーリオの肩へ掛けた。王子の紋章ではなく、彼が率いた救難隊の印が縫われている。

「寒い場所に一人で立たせない。それだけだ」

観覧席では天文学者マーヤが望遠鏡をどけ、隣の椅子に温めた石を置いた。

「観測所の席、まだ君の分を残してる。港の星図も途中でしょう」

宮殿の外から低い汽笛が響いた。飛行艇技師オーデが、処刑覚悟で王家の着陸塔へ船を横付けしている。

「燃料は満タン。行き先は三つまで選べる。選ばなくても飛べる」

兄王が反逆だと叫んだ。マーヤは星図を壁へ投影する。ユーリオが撤退させた夜、港を覆った氷嵐は敵軍の兵器ではなく、兄王が密輸した試作品の暴走だった。撤退が一刻遅ければ、住民船は全滅していた。

大広間がざわめく。けれどユーリオの胸には、別の恐れが戻ってきた。真実が証明されても、港は失われた。自分といれば、また誰かの故郷を失わせる。

「僕は次も、正しい判断をできるとは限らない」

ブリュンは外套の留め金を締めた。マーヤは隣の石をどけず、オーデは汽笛をもう一度鳴らした。

「なら、次は三方向から止める」とブリュン。

ユーリオは銀杯を卓上へ戻した。誰の隣に立つかは決めず、まず空席に腰を下ろす。肩には外套、窓の向こうには飛行艇。そのどれも、彼が失敗しないことを条件にはしていなかった。