泥川魚の銀皿
港のない砂都で、川魚は貧民の食べ物だった。泥臭く、王侯の皿には載せられない。そう決めつけられていた。
海魚は氷魔石で運ばれるため一尾が銀貨五枚。青鱗魚なら同じ重さで銅貨二枚。それでも宿屋は買わず、漁師たちは獲れた魚を肥料へ埋めていた。しずくは、その光景を見て魚処理の仕事を申し出たが、「異界人に魚の格は分からない」と門前払いされた。
転生した久慈しずくが魚商ギルドへ持ち込んだのは、朝に揚がった青鱗魚十尾だった。
「臭いを香草で隠すつもりか?」
鑑定役のロドは鼻を押さえた。香草は使わない、としずくは答え、井戸水に塩を溶かした。舐めて海水より少し薄い程度。そこへ腹を開いた魚を沈め、短い砂時計を置く。
待つ間、隣の商人は香辛料を山ほどまぶして焼いた。煙は派手だったが、一口食べた鑑定役たちは顔をしかめた。泥の匂いと香辛料が喧嘩している。しかも香辛料代だけで魚の二十倍。売値を海魚より高くしなければ元が取れない。
しずくの桶には派手さがない。塩水が薄く赤みを帯び、魚の表面からぬめりが落ちていく。その変化だけが、彼女の答えだった。
しずくは魚を引き上げ、水気を布でぬぐった。皮目だけを焼く。塩水で余分な血と臭みが抜け、身は締まっている。鉄板から立ったのは、土ではなく淡い脂の香りだった。
銀皿に置くと、青い皮がぱりりと割れた。
ロドは用心深く一口食べ、次に二口目を急いだ。
「香草は?」
「使ってません」
「高級塩は?」
「桶一杯で銅貨一枚分です」
しずくは講釈をせず、浸ける前の切り身も焼いた。二つの皿の差は、鼻を近づけるまでもない。片方には川底が残り、片方には魚の甘みだけが残った。
見物していた宿屋の女将が、残った半身を骨際まで食べてから銀貨を卓上へ滑らせる。漁師の少年が、自分たちの魚が銀皿から消えたのを信じられない顔で見ていた。しずくは彼へ、明朝も同じ鮮度で持ってくるよう告げる。魚を変えたのではない。扱いを変えただけだった。
「今夜の宴で三十尾。明朝から毎日もらえる?」
ロドが慌ててギルドの仕入れ札を取り出した。
昨日まで一尾銅貨二枚だった青鱗魚の欄に、新しい文字が刻まれる。
『王都向け上等魚――久慈式処理済み、全量買い取り』