流星群の通知
【天文観測会・運営】
23:41 雪村理久
廃止申請、出した。明日の正午で大学の公式グループも閉じるって。
23:42 墨谷千晴
了解。
23:44 薊野玄
既読二人しかつかないの、最後までうちららしいな。
三人だけのグループチャットは、かつて百人近くいた。観測会の日だけ現れた人、望遠鏡を壊して消えた人、恋人を作って抜けた人。退会通知が降るたび、夜空の写真が少しずつ上へ追いやられた。
23:47 理久
玄、春からどうするの。
23:49 玄
母さんの店を手伝う。就職は延期。望遠鏡は売る。
23:49 千晴
売るんだ。
23:50 玄
見る時間がない物を持ってると、持ってるだけで責められるから。
その一文のあと、三分間、誰も打たなかった。
23:53 玄
千晴は高校の先生だろ。
23:54 千晴
地学の採用枠、落ちた。理科全般。最初の授業で星の話をするつもり。
23:55 理久
僕はチリの観測所。二年契約。
23:55 玄
夢の勝ち組。
23:56 理久
観測データの整理係。空を見るのはモニター越し。しかも昼夜逆転。
23:57 千晴
それでも行くんだ。
23:57 理久
ここに残ったら、行かなかった理由を二人のせいにしそうだから。
千晴が「わかる」と打ち、すぐ消した。代わりに、三年前の流星群の写真を送った。雲ばかりで、星は一本しか写っていない。画面の端には、寒さで震えた三人の影が伸びていた。
00:03 千晴
あの夜、玄が「見えた」って嘘ついたから、全員朝まで残った。
00:04 玄
嘘じゃない。雲の向こうにいた。
00:04 理久
教師向きの説明ではないな。
三人分の笑う絵文字が並んだ。簡単な顔が、ひどく遠く見えた。
00:08 玄
解散したら、この写真どうなる?
00:09 理久
保存しとく。
00:09 千晴
私も。
00:10 玄
じゃあ消していいな。
その直後、〈薊野玄がグループから退出しました〉と表示された。
千晴は呼び戻そうとして、招待ボタンに触れなかった。理久も何も送らない。玄は別れを先に実行することでしか、別れを言えない人だった。
午前零時十二分、観測アプリの自動通知が割り込んだ。
〈今夜、北東の空で流星群が極大を迎えます〉
残った二つのアカウントは既読をつけた。しかし「見よう」と言う人は、もうグループの中にいなかった。