消し跡の第一志望
進路希望調査の第一志望を、私は三度書き直した。
最初は地元の国立大学。次に県内の公務員試験。そして最後に、東京の美術大学。
紙の表面は消しゴムで白くけば立ち、どの文字も完全には消えていなかった。
放課後、担任がその紙を光に透かした。
「本音はどれだ」
「全部です」
地元に残れば、祖母の通院を手伝える。公務員になれば、母を安心させられる。美術大学へ行けば、子どものころから描いてきた絵を、初めて進路と呼べる。
三つとも嘘ではなかった。
担任は机の上へ三本の鉛筆を並べた。
「一本だけ選べと言われると、他の二本を捨てる気になる。でも、進路はそんなにきれいじゃない」
「じゃあどうすれば」
「選んだあとも、捨てなかったものの責任を持つ」
難しい言い方だった。
その日の帰り、母へ美術大学の話をした。
「絵で食べられるの?」
最初の言葉は予想どおりだった。
私は学費の表、奨学金の資料、学生寮の費用を見せた。調べていたことに、母は驚いた。反対されるのが怖くて隠していただけで、何も考えていなかったわけではない。
「おばあちゃんは?」
「週末は戻る。無理なら、近くの大学へ編入も考える」
話しているうちに、自分の計画の穴がいくつも見つかった。
母はため息をついた。
「夢って、もっと勢いで言うものだと思ってた」
「勢いだけじゃ行けないから」
しばらくして、祖母が隣の部屋から顔を出した。
「東京で描くなら、私を美人に描きなさい」
母は笑い、私は泣いた。
翌日、担任へ進路希望調査を出した。
第一志望には美術大学。第二志望には地元の大学。備考欄には、奨学金と介護の相談を希望すると書いた。
担任は赤い丸をつけなかった。
代わりに、消し跡の上へ透明なテープを貼った。
「破れそうだから」
紙は少し不格好になった。
それでも、これまで書いた選択肢は透けて見えた。
合格発表の日より、私はあの消し跡を覚えている。
夢を選ぶことは、現実を消すことではなかった。消せないものを抱えたまま、どの文字を一番濃く書くか決めることだった。