火のない蝋燭
市立工芸館の閉館後、宝物庫の鍵が館長室から消えた。鍵は展示替えの確認のため机上に置かれ、警報試験の三分間、館長の蚕養と三人の職員は同じ部屋にいた。試験終了後、鍵だけがなくなっていた。出入口は警備員が見張り、誰も室外へ出ていない。
疑われたのは学芸員の千木良、修復師の鉢呂、設備主任の曽根崎。宝物庫には翌日公開予定の金工品があり、千木良には論文の捏造、鉢呂には修復費の水増し、曽根崎には警報工事の手抜きを示す資料が保管されていた。全員の鞄と衣服を調べても鍵はなかった。
警報試験は予定されたもので、非常灯の下でも互いの姿は見えていた。だから腕を大きく動かせば誰かが気づく。三人は「鍵をポケットへ入れる余裕などない」と口を揃えた。私は人の動きではなく、試験前と試験後で形を変えずに机上へ残った品々を一つずつ比べることにした。
机の周囲から得られた手掛かりは三つだけ。第一に、暖炉棚の三本の蜜蝋燭は一度も灯されていないのに、中央の一本だけ表面が柔らかく温かかった。第二に、同じ長さの左右の蝋燭が百八十二グラムなのに、中央だけ二百一グラムあった。第三に、警報試験中、展示ラベルを乾かすための温風機を館長室へ持ち込んだのは千木良だった。
千木良は「蝋燭は館長の私物です」と言った。だが中央の蝋燭の底には、指で撫で直したような不自然な波がある。館長は朝、三本を同じ箱から出したと証言した。
私は火のない芯を抜かず、蝋燭の底を薄く削った。金属の角が現れた。「千木良さんは警報音で皆の注意が扉へ向いた間、温風機で蜜蝋の底を軟らかくし、鍵を押し込んで表面を均した。十九グラムの差は鍵の重さです。燃えていないのに温かい蝋、一本だけ増えた重量、そして温風機を扱った人物。この三点で十分です。鍵は部屋から消えていない。飾り物の中へ形を変えて隠されただけです」蝋燭を燃やす必要はありません。柔らかくして硬く戻せば、容器には見えない容器になります。警報中に温風機を使っても不自然でない立場まで含めれば、他の二人には同じ方法を実行できません。