火刑台から持ち帰った太陽

「魔力ゼロの女など、薪より価値がない」

異端審問官が松明を投げると、片瀬澪を縛った火刑台へ炎が走った。

転移してから七日。澪は治癒院で働いただけだった。けれど高熱に苦しむ子どもの額へ濡れ布を置いたことが、神の領分を侵した罪だという。燃え上がる薪の向こうで、助けた子の母親が口を塞がれて泣いていた。

本当の理由はもっと単純だった。澪が冷却と水分補給を教えたせいで、高価な火除け祈祷を買う患者が減ったのだ。審問官の指には、新しい宝石指輪が光っている。処刑の前口上でも彼は神の怒りを語りながら、寄付箱の数だけは二度確認していた。

熱が頬を刺す。

その瞬間、澪の視界に初めて文字が浮かんだ。

《熱量徴収》

指定した範囲の熱を、一枚の硬貨へ集める。一度限り。

澪は笑いそうになった。前世では工場の品質管理をしていた。熱は消えない。ただ移る。

ならば、この国が彼女へ押しつけた熱を、残らず受け取ればいい。

「徴収します」

能力を使うと、轟音とともに炎が消えた。

火刑台だけではない。審問官の松明、広場の篝火、聖堂の祭壇、地下で稼働していた魔導炉まで一斉に暗くなる。真夏の空気が白く凍り、炎の代わりに細かな霜が舞った。

澪の掌には銅貨ほどの赤い円盤が現れた。

内部で太陽のような光が渦を巻いている。

審問官は震えながら鑑定器を近づけた。針が最高値を振り切り、耐熱水晶が飴のように垂れ、台座ごと真っ赤に溶け落ちた。

「王都七区画分の炉心熱……いや、まだ増えている。聖火まで吸収したのか」

澪を縛っていた縄は、熱を失って脆くなり、指で触れただけで崩れた。

彼女は赤い円盤をつまみ、助けた子の母親へ見せた。

「これ、冬まで保管できる場所はありますか」

誰も笑わなかった。

聖堂の大扉が開き、騒ぎを聞きつけた炎術師団長が駆け込んでくる。王国最高の火術師は、澪の掌を見た途端に杖を落とした。

そして凍った石畳へ片膝をつき、両手を差し出した。

広場の人々も、火刑台ではなく澪の掌にある小さな太陽を見つめていた。