火竜騎士団の公開試験

王立火竜騎士団の入団試験で、バスティンの適性票には一行しかなかった。

《攻撃技能なし。防御技能のみ》

観覧席から失笑が降った。団長ローディクは、わざと声を張る。

「盾役にも最低限の勇気は要る。訓練竜の炎に十秒耐えれば合格だ」

バスティンは試験場の中央へ進み、背筋を伸ばして両手を後ろで組んだ。盾すら持たない。

「装備を忘れたか?」

「いいえ。壊れる物は持ち込まない主義です」

笑いが大きくなった。彼の不採用票へ先に署名していた教官たちは、気楽に菓子をつまんでいる。残る手続きは、臆病者が逃げ出すのを見届けるだけだった。

ローディクの合図で、赤鞍竜ゼフィードが火を吐いた。城壁用の耐熱煉瓦が橙色に発光し、計測官の防御盤には衝撃値が跳ね上がる。十秒どころか三秒で、人間の耐久上限を越えた。

炎が止む。煙の中から、バスティンが同じ姿勢で現れた。両手は背中、靴の位置も変わらない。

「時間停止系か?」

ローディクはそう言ったが、自分で否定した。時間が止まっていたなら、バスティンの外套に降った煤も空中で止まるはずだ。煤は普通に落ち、布に触れた瞬間だけ灰色の粒となって滑り落ちていた。

ゼフィードが低く唸った。竜が先に怯えたことを、団長だけが見逃さなかった。炎を吐き終えた竜が、獲物から視線を外せずにいる。捕食者ではなく、崖際の馬の目だった。

「標準炎では試験にならん。《王冠炎》を使え」

「団長、候補生に許可された出力では――」

「命令だ!」

竜の角に金色の火輪が浮かぶ。二撃目は、対城門用の集中炎だった。轟音とともに試験場の結界が三枚割れ、観覧席の笑い声が消える。

煙が左右へ流れた。

バスティンはまだ両手を後ろで組み、少し退屈そうに瞬きをしていた。

「十秒、経ちましたか」

計測官が返事をしない。防御盤の針が一周、二周、三周し、数字を捨てて回り続けている。ローディクは盤面を叩いた。

「故障だ。予備機を!」

三台目も、同じだった。魔石が白くなり、表示窓に見たことのない文字が浮かぶ。

《対象の防御値を定義できません》

試験場の全員が、ようやく笑う相手を間違えたと知った。菓子を持っていた教官の手から、砂糖菓子が一つ落ちた。

最後に防御盤が甲高い音を鳴らし、表示は《測定不能》で固定された。