灰色煉瓦の初仕事

王立工房を辞めさせられたフェリアの荷物は、工具箱一つだった。

「女の窯師では火に舐められる」

親方がそう言って笑った翌日、彼女は報酬代わりの土地へ来た。斜面の上には朽ちた家と、胴を大きく割られた灰色煉瓦のパン窯があった。

全部は直さない。初日は、割れ目一本だけと決めた。

フェリアは亀裂の煤を細い刷毛で払い、井戸水で縁を濡らした。砕いた煉瓦、粘土、炉灰を混ぜ、拳ほどの補修土を作る。小屋の陰から、角の片方が欠けた羊人の少年モズが見ていた。

「それだけで、本当に火が漏れないの?」

「それだけを、きちんと直すの」

彼女は割れ目の奥まで補修土を押し込み、木べらで表面を撫でた。最後に工房から持ち出した小さな銀槌で、煉瓦を三度叩く。高い音、低い音、澄んだ音。三つ目が返れば、内部に空洞はない。

火入れは細い枝から始めた。急に熱すれば、直した場所がまた裂ける。薪を一本ずつ足し、窯の顔色を見る。灰色だった壁が温まり、赤みを帯びても、亀裂は開かなかった。補修した線だけが、古い窯へ新しい縫い目のように残った。

モズが村から持ってきた雑穀粉をこね、丸い生地を二つ作った。窯へ入れると、乾いた薪がぱちぱち鳴る。やがて香ばしい匂いが斜面を下り、放牧中の羊たちまで鼻を上げた。

焼けたパンの底を指で叩く。こん、こん。中まで火が通った音だった。

フェリアが割ると、粗い生地の間から湯気が立った。モズは熱さに指を振りながら、それでも半分を一息で食べた。

「王都の白パンよりうまい」

「王都の白パンを食べたことがあるの?」

「ない。でも、きっとそうだ」

二人が笑うと、坂下から羊飼いたちが三人上がってきた。放牧地まで香りが届き、火事かと思って確かめに来たらしい。

「明日、村の粉も焼けるかい」

先頭の老女が、卵六つと羊毛の束を石台へ置いた。王立工房では一度も任されなかった、自分の名で受ける最初の仕事だった。

モズが炭の欠片で、補修した線の横へ小さく書いた。

窯師フェリア。

彼女は消そうとして、やめた。そして二つ目のパンを割り、集まった手へ一切れずつ渡した。

直したのは、ほんの一本の亀裂だった。それだけで今夜、火も香りも、彼女の名も、どこからも逃げなかった。