炉心の首輪を溶かして

鍛冶師テオドールの工房へ運び込まれた荷は、鉄鉱石ではなかった。

火蜥蜴の魔族サラマ。首には炉心環と呼ばれる赤銅の首輪があり、鎖の先は巨大なふいごにつながっていた。商人グレッソが命令鈴を鳴らすと、彼女の喉から炎が噴き、冷えた炉がたちまち白熱する。鈴の回数が多いほど火力は上がるが、そのたび彼女の唇には新しい裂傷ができた。工房には鉄より先に、焼けた血の匂いが広がった。

「前の鍛冶場では三年もちました。壊れても部品代は不要です」

テオドールは返事をせず、首輪を虫眼鏡で調べた。

所有者の印を打ち直すための空白がある。そこへ自分の槌印を刻めば、サラマは彼の命令だけを聞くようになる。

だが彼は刻印棒を炉へ投げた。

「何をする!」

「この輪を外す」

「無理だ。鍵は私の血だぞ」

グレッソが笑ったとき、テオドールは首輪の裏に、髪より細い継ぎ目を見つけていた。輪そのものが呪具ではない。命令を一周させる赤い線こそが隷属の回路だ。

彼はサラマへ言った。

「痛むかもしれない。嫌ならやめる」

「……私に、嫌と言う権利が?」

「今ここで使え」

長い沈黙のあと、彼女は首を差し出した。

テオドールは最も細い鏨を継ぎ目へ当て、一度だけ槌を振った。

澄んだ音がした。

首輪は砕けず、輪の内側を走っていた赤線だけが切れた。次の瞬間、銅環は熱を失い、ただの金属となって床へ滑り落ちた。

グレッソが命令鈴を乱打する。

「焼け! 工房ごと焼き払え!」

サラマの口元に炎が灯った。だが彼女は商人を焼かず、鈴だけを小さな火で溶かした。

そのまま裸足で雪の町へ出ていく。テオドールは外套を渡したが、引き留めなかった。

夜、炉の温度が落ちた。ひとりでふいごを踏むテオドールの背後で、扉が開く。

サラマが戻ってきた。借りた外套を畳み、その上にグレッソの契約鍵を置く。

「逃げ道は見つかったか」

「あった。南門は開いていた」

彼女は工房の予備の革手袋をはめ、ふいごの取っ手を握った。

テオドールはふいごから足を下ろした。彼女へ渡せる契約書も命令札もない。あるのは、職人二人分には少し狭い工房だけだった。

「では、なぜ戻った」

「ここでは炎を出せと命じられなかった。だから私は、自分でこの火を守ってみたい」

床の銅環が、彼女の最初の一踏みで水桶へ転がり落ちた。